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第二章
3
マリウスに手を取られる。
長椅子から立ち上がり、シリアナはマリウスに導かれるまま、続きの間へ向かった。
マリウスが扉を開ける。中を見て、シリアナの足がすくむ。
部屋の中央には、天蓋つきの大きな寝台が置かれていた。
先に部屋に入っていたマリウスがふり返る。
シリアナはマリウスに握られていた手を取り返し、もう片方の手で胸の前に握りこむ。うつむいて、首を左右に振った。
「怖い、ですか?」
マリウスに訊ねられ、シリアナは頷いた。
「公爵様のおかげで命を長らえたというのに、敗戦国の女が、往生際が悪いとお思いでしょう」
「いいえ」
穏やかだが力強い声に、シリアナは顔を上げた。
マリウスがシリアナとの距離を一歩つめる。マリウスの肉厚な手がそっと頬に触れ、すぐに離れていった。
「だが、私は貴女が欲しい。貴女のすべてを私は欲しい。そして望むべくなら、喜びも悲しみも苦しみも、すべてを貴方と分かち合い、貴女と共にある人生を送りたい。改めて貴女に求婚させてください」
言ってマリウスは、片膝を立てひざまずき、シリアナのことを見上げた。
「バズド=ナキ・バジス=アミ・ダナ=アミ・スレ・シーリーン・スレ・アナどうか私の妻に。これから先、貴女の側に私がよりそうことを許してください」
「……わたしは、蛮族の……シラールの民です。公爵様の妻になるのに相応しい女ではございません。それなのに、本当に、わたしでよろしいのですか」
「貴女が何者であろうと、初めて貴女と出会ったあの瞬間から、私の心は貴女の上にあります。私の気持ちを受け取ってくれるなら、どうか貴女の手を私に預けてください」
マリウスが掌を上に、シリアナの前に手を掲げた。
ためらって、その上にシリアナは自分の右手を重ねた。
マリウスは素早い動きで左手でシリアナの手首をつかみ、立ち上がる。シリアナの体を自分の方へ引き寄せ、触れるだけの口づけをした。
「――公爵様……」
シリアナの呼びかけに、顔を上げてほほ笑んだ。
「何も心配せずに、すべて私にゆだねてください。決して、貴女を傷つけるようなことはしませんから」
シリアナは頷いた。
マリウスがシリアナを横抱きにする。
足元を支えていたはずの床の感覚が突然なくなり、シリアナは驚く。マリウスの首にしがみついた。
マリウスが静かに笑う。マリウスの首筋に寄せていた額から、彼の喉元が震えたのを感じた。
シリアナを抱えたまま、マリウスは寝台まで行く。
寝台の横に片膝をつくと、シリアナの体を寝台の上に横たえた。
首にまわされたままになっているシリアナの腕を外して、マリウスが寝台から少し離れた。
首元を飾る薄布をほどき、シャツの前をくつろげる。
よく鍛え上げられた逞しい胸があらわになった。
シリアナは首を回して顔をそむける。敷布を両手でぎゅっと握った。
「貴女が怖いと思うのは当然ですが、それでも私は貴女が欲しい」
マリウスが、寝台に片足を乗りあげる。脇腹の横辺りで、寝台が沈み込んだのがわかった。
「今、私の胸が、どんなにか貴女を求めて、高鳴っているか分かりますか?」
シリアナは、マリウスのことは見ずに首を左右に振った。
「なら、触れてみてください」
きつく敷布を握ったシリアナの右手に、マリウスの大きく力強い手が重ねられる。
マリウスの武人らしい太い指が、いたわるようにシリアナの手の甲をなでる。優しいその動きに、シリアナの手から少しずつ力が抜けていく。
マリウスはシリアナの手を持ち上げると、自分の左胸にシリアナの掌を触らせた。
「感じますか? 貴女を求めて早鐘を打つ私の胸の鼓動を」
外気にさらされひんやりとした肌の下で、とくとくと鳴るマリウスの胸の鼓動を感じる。マリウスの血潮が熱く波打っている。
「どうして?」
「言ったでしょう。初めてあったあの瞬間から、私は貴女に恋したのだと」
マリウスは靴をその場に脱ぎ捨て、寝台の上に乗り、シリアナをまたいで、両手をシリアナの顔の横についた。
「愛しています」
言ってマリウスがシリアナの首筋に口づけた。
「……あっ」
首筋の薄い肌を力強く吸われる。ちりりとした痛みに、シリアナは思わず声を上げた。
顔を離すと、マリウスは両肘を寝台につきシリアナの頭を抱き込む。シリアナに正面を向かせた。
顔の左右から落ちかかった金髪が、マリウスの彫りの深い顔立ちにかかる陰影を濃くしていた。
菫色の瞳がすぐ目の前で、熱っぽくシリアナのことを見つめている。
気恥ずかしくなり、首を回して顔をそむけようとしたが、しっかりとシリアナの頭を押さえたマリウスの両手がそれを許さない。
シリアナはマリウスから視線を外し、彼の肩を掴んで自分から引きはがそうとした。
しかし、男の大きな体は、シリアナの細い腕の力では微動だにしない。
マリウスが再びシリアナの首筋に顔を寄せる。
先ほどと同じ個所を軽く吸われ、ざらついた舌先でなめられる。
「あっ」
湿った、生温かい感触に思わず声がもれた。
「いや」
シリアナは言って、マリウスの頭に手をかける。
マリウスはシリアナの抵抗など気にせず、シリアナの首筋に幾度も口づけを落とすと、シリアナの唇をふさいだ。
「うっ、ぅうん」
シリアナは目をつむり、首をそらして、喉の奥であえぎ声をあげる。
シリアナの頭を押さえていたマリウスの左手が、服の上からシリアナの体の線をなぞって、ゆっくりと下におりていく。
その間も角度を変えて、マリウスは何度もシリアナに口づけを落とした。
スカートの上から、マリウスの左手がシリアナの太ももの辺りをそっとなでる。
布越しに感じるマリウスの大きな掌の体温がじれったい。シリアナは腿の内側をこすり合わせた。
マリウスの弾力のある唇がシリアナの小さな唇を包み込み、軽くすい上げる。
上唇の端の敏感な部分を舌先でちろちろとなめられる。
くすぐったさに思わずシリアナが口を開けると、わずかに開いたその隙間から、マリウスの舌が押し入ってきた。
突然のことにシリアナは体をすくめる。マリウスはシリアナを気づかうように、奥に縮こまったシリアナの舌に自身の舌をゆっくりと絡めて、強くすい上げた。
「うっ、うぅん」
シリアナの鼻から甘い声がぬける。今までに聞いたことのない声に、自分でも驚いてシリアナは目を開ける。
マリウスは交じり合った二人の唾液を音を立てて嚥下し、シリアナの頭の横に掌をついて、体を起こす。
真っすぐに見つめてくるマリウスの視線が恥ずかしくて、シリアナは濡れた唇の上に握った右手をおくと、首を曲げて顔をそらした。
「恥ずかしがらないで。私は貴女をもっと知りたい」
マリウスはシリアナの唇の上から握った右手を外させると、シリアナの頬に手を当て、ゆっくりと顔を上向かせた。
マリウスの菫色の瞳が、優しくシリアナのことを映している。
マリウスは左掌をシリアナの髪に差し込んで、指先だけでシリアナの頭をなでた。
シリアナはマリウスの手の指を握って、その動きをやめさせる。
「公爵様の女になるのだと覚悟してきました。お願いです。奪うのなら、力のままに奪ってください」
「私は貴女を愛しています。能う限り貴女を大切にしたい」
マリウスはシリアナの手を寝台の上におく。シリアナの頬に掌をあて、シリアナの気持ちを落ち着かせるように、触れるだけの何度も口づけを繰り返した。
唇から顎、顎から喉へ。口づけは次第に下におりていく。
「あっ」
喉元に口づけられる。
急所を触れられ、本能的に恐怖を感じる。
シリアナは喉をそらせ、小さく悲鳴をあげた。
マリウスはそれに構わず口づけを続ける。
マリウスはシリアナの首筋に口づけ、シリアナの体を反転させた。
「やっ、なっ、なに」
マリウスの手が、シリアナのドレスの背中の部分をとめる釦にかかる。
シリアナは振り返った。
うつぶせになったシリアナの腰に、マリウスが馬乗りになっている。両腕は体の脇でマリウスに脚に固定され、抵抗できない。
シリアナが戸惑っている内に、マリウスは器用に、背中の釦をすべて外してしまう。
その間も、シリアナの首筋から肩にかけ、降る口づけがやむことはなかった。
「やめて」
マリウスは、シリアナのドレスを頭からひきぬき、床に放り上げる。
続いて、まだはいたままだった靴も靴下もすべてはぎ取られる。
身につけるものは、袖のない上衣とふくらはぎまでの長さのスカートを縫い合わせた肌着だけになる。
マリウスはシリアナの腰に手をあて、シリアナの体を反転させた。
シリアナは両目の上に腕をおいて首を振り、マリウスに弱弱しく抗議した。
「……やめて、ください」
バズド族が滅び、一人生き延びたあの日から、誰かに罰せられることを望んできた。
愛されたいなんて思わない。強引に、男の欲望のままにすべてを暴かれてしまえば、どんなに楽だろう。
シリアナの眦から涙が落ちる。
マリウスが、両目の上におかれていたシリアナの腕をどかす。眦からこめかみへと流れる涙を見て、マリウスが大きく息を吐く。
「婚約者のことが忘れられませんか? だとしても私は、貴女を求める心を留めることはできません。貴女に愛してもらいたいとは望みません。ただ、許されるのなら、どうか私を受け入れてください」
言ってマリウスは、シリアナの肩をそっとつかむと、左右の眦に唇を寄せ流れる涙を吸い取った。
そんなマリウスの真摯な優しさがつらい。
つむった眼から、さらに涙があふれ出す。
「泣かないでください」
マリウスの手が、シリアナの左頬に寄せられる。親指で流れる涙をぬぐわれる。
マリウスは静かにシリアナの唇に口づけた。
「っぅ、うっぅん」
シリアナの鼻から、あえぎ声がぬける。
マリウスは、軽く唇を吸うだけの口づけを小刻みに繰り返す。
このまま彼に、すべてをゆだねきってしまいたい。
シリアナは、マリウスの広い肩に両手を回した。
マリウスの肩がびくりと揺れて、動きがとまる。
口づけをやめて、マリウスがシリアナのことを見つめてくる。
「やめないで」
シリアナは、頭を持ち上げ自分からマリウスに口づけた。
はだけたマリウスのシャツの前ごろもと、シリアナの肌着がふれあって、衣擦れの音がする。
薄い肌着の布越しに、マリウスの体温を感じた。
このまま何も考えずに、マリウスのものになってしまいたい。
シリアナは、マリウスのシャツを両手で握った。
突然積極的になったシリアナに、マリウスが驚いたように息を呑む。
シリアナは頭を枕につけると、左手でマリウスの頬を触り、笑いかけた。
「何も考えずに。どうかわたしを公爵様のものにしてください」
「いいのですか? このまま進めば、貴女がどんなに嫌がってもとめられなくなる」
「構いません。公爵様の好きにしてください」
シリアナはマリウスの体を抱きしめ、その広い胸に顔をうずめる。
少し汗ばんで、しっとりとした肌。首をまわして耳を寄せれば、マリウスの心音が聞こえてくる。先ほど掌で感じたときよりも少し早くなっているその鼓動に、彼が緊張しているのだとわかった。
「わたしの気が変わらないうちに早く」
マリウスの体を抱く腕に力をこめ、マリウスの胸に頬を寄せたままシリアナは懇願する。
「貴女の気持ちがどこにあろうとも、私は生涯貴女を愛し続けます」
マリウスは言うと、自らの胸からシリアナの顔をひきはがすし、シリアナの頭を枕へとおしつけた。
「だから、これから何をしようと私のことを許して欲しい」
「ええ」
シリアナは頷く。マリウスが口づけてくる。マリウスは性急に舌を差し入れる。シリアナは驚いて身をすくませた。
奥で縮こまったシリアナの舌に自らの舌をからめ、マリウスが強く吸い上げる。
左の手は、シリアナの体をまさぐり、肌着の裾を持ち上げる。そのまま肌着の中へと侵入し、膝の横から太ももへ、さするように這い上がる。
武人として剣を握ることに慣れたマリウスの手の皮は厚い。そのざらざらとした感触に、シリアナの肌が粟立つ。マリウスの大きな手が、臀部の横をつつみこむ。そしてそのまま長い指をのばして、腰との境目の辺りをゆっくりとなぞる。
くすぐったいのか気持ちいいのかわかならい。シリアナは身をよじって逃げようとするが、のしかかったマリウスの下半身の重みと、シリアナの頭を抱えこんだもう片方の手がそれを許さない。
「っぅう、うぅうん」
首を振り、喉をそらし、鼻から抜ける喘ぎ声でシリアナは抗議する。しかしマリウスは、口づけをやめることなく、さらに深くする。
マリウスの唇が、顎から喉へ、鎖骨へとおりていく。
鎖骨の内側の尖った部分をマリウスは音を立ててきつく吸い上げ、顔を離した。
「っあ」
遠ざかっていく体温が名残惜しくて、シリアナは思わず声を上げる。
シリアナの頭をおさえていたマリウスの左手が、首筋をなぞって下がり、肩の上でとまる。親指を鎖骨まで延ばし、マリウスは先ほど口づけたところを優しくなでた。
「痕がついている。貴女の白い肌が鬱血して、まるで花びらがさいたようだ」
マリウスは言って、シリアナの肩をおさえると、もう一度、音を立て、今度は触れるだけの口づけをそこにした。
マリウスの右手が、シリアナの肌着の肩ひもを二の腕のあたりまでひきさげる。
胸ぐりの大きく開いた肌着ががめくられ、シリアナの左胸が、マリウスの前にあらわになる。
「っやぁ」
左手首はマリウスの右手によって、しっかりと敷布の上に押さえつけられている。
シリアナは自由になる右手で、胸元を隠した。
「嫌がらないで」
マリウスは、唇をシリアナの右耳の裏に寄せてささやく。
マリウスの熱い吐息が耳元の敏感な箇所にかかる。シリアナは思わず身震いした。
マリウスの右掌が、シリアナの左腕ををさすりながら這い上がってくる。
肩の辺りで一旦動きをとめると、胸元をおさえるシリアナの左手の甲に自分の手を重ね、シリアナの手を寝台の上にどかす。
そしてそのまま左の乳房を下からすくいあげ、先端をくわえこんだ。
マリウスの大きな右手が、シリアナの乳房をもみあげる。
小さく尖った乳房の先端をマリウスは甘噛みし、時にざらざらとした舌でこねくり回し、吸い上げる。
「っあ、いやっ」
シリアナは首を振って抵抗した。
マリウスはそれを無視して、膝頭で伸ばされたシリアナの両脚を割り、体をおしいれた。
左手がのぼってきて、シリアナの腰のくびれた部分をなでる。
マリウスの左手は肌着の中で正面に周り、脚の付け根側からシリアナの下穿きの中に入ってくる。
下腹部のシリアナの薄い茂みをなぞり、指先で股の間をなでた。
「っあ」
これから何をされるのか知っている。
シリン高原で過ごした日日、秋から冬にかけては羊が、春になれば馬が、性の営みをくりかえすのを見てきた。
だがそれが自分の身に降りかかると思うと怖い。シリアナは全身に力を入れ、身を固くする。
それに気づいたマリウスが乳房からを顔を離し、シリアナのことを見上げて言う。
「大丈夫。貴女に合わせて、急ぎはしませんから」
マリウスは体を引き上げ、乳房から手を離し、右手をシリアナの左頬にそえる。
幼い子どもをなだめるように、シリアナの額に、そして右頬に 口づけを落とした。
その間もマリウスの左手は、シリアナの股の間をなぞるように優しく往き来する。
「あっ、ゃぁ」
花唇の頂、その一点に触れられた時、シリアナの体を強い快楽が走り抜けた。
シリアナは声を上げ、背を反らせ、つま先までぴんと体をのばす。
シリアナの耳たぶを甘噛みし、マリウスが密かに笑った。
その快感は一瞬だった。
わざとなのか、マリウスはもう一度そこに触れることはしない。マリウスが花唇の縁をなぞるたび、もどかしい、うずくような快感が、シリアナの下腹部と腰のあたりに溜まっていく。
「あっ、やあっ、お願い」
弱弱しい刺激は、徐徐にシリアナの体の中にたまり、シリアナの体の中を一杯にする。
この身うちせきとめられた快楽を解放して欲しい。
シリアナは敷布を両手でしっかりと握り、首を左右に降って、マリウスに懇願する。
「まだ、もう少し待って」
言ってマリウスは、シリアナの左耳たぶを甘噛みし、耳の裏側をなめる。
卑猥な、湿った音が、シリアナの耳のすぐ側でする。
マリウスは、空いている手でシリアナの左の乳房を下から包み込む。親指と人差し指で、つんと尖った先端をつまんだ。
掌で乳房全体をやわやわともみしだき、先端をひねったり、転がしたり、つぶしたり、シリアナの乳房に刺激をあたえる。
「はあっ、っぁ、ゃあっ」
言葉にならない喘ぎ声が、シリアナの口からもれる。
マリウスはシリアナの耳たぶの内側をなめると、さらに奥に、舌を差し込んだ。
「ひゃっ」
シリアナの耳を犯す、濡れた感覚。シリアナの肌が総毛立つ。
マリウスの舌は、まるでそれだけが意志を持った生き物かのように、シリアナの耳の中を縦に、横に、自由に動き回る。
「あぁっっ」
シリアナは背を反らせ、叫び声を上げた。
そのすきに、マリウスの左手の人差し指は、シリアナの脚の付け根の間にある花唇に割り入り込む。
「あっ」
狭隘の入り口をなでられ、シリアナの喉から思わず声が出る。
マリウスはシリアナの耳から舌を引き抜き、シリアナの耳元で笑った。
「こんなに濡れて」
マリウスの人差し指は、シリアナの狭隘を押し開くことはせず、花唇の間をいったりきたりする。
「貴女の両側の襞が、ふっくらと膨れている。貴女の婚約者は、貴女のここに触ったのですか?」
「いいえ」
シリアナは首を左右に振る。
レザイルと別れた時、シリアナはまだ十三だ。初潮を迎えていれば、レザイルの妻になっていたかもしれない。だが、あの頃、シリアナはまだ、幼いままだった。
「惜しい男だ。貴女を自分のものにできずに死ぬなんて。婚約者が敵国の将のものになるなんて、今頃、貴女の婚約者はあの世で悔しがっているでしょうね」
「……そんなこと」
レザイルの魂はきっと、シーリーン女神の懐に抱かれ、現世での傷を癒すために静かに眠っているはずだ。
その微睡みの中で、現世の記憶はすべて魂の深い淵に沈み忘却され、まっさらになった魂は、再びこの世に誕生する。
過去にとらわれているのは、シーリーン女神の下にいるレザイルではなくシリアナだ。
マリウスはシリアナの異母兄を殺した。シリアナが異母兄に渡したオオカミの牙の首飾りのせいで、マリウスは、自分が殺したのはシリアナの婚約者だと思い込んでいる。
今ここで、マリウスに乱暴に抱かれれば、三年前のあの晩、一人生き残ったというシリアナの罪悪感は薄れるかもしれない。マリウスが嫉妬にとらわれ、シリアナのことを抱くというのならそれでいい。だが、シリアナの罪悪感を薄れされるために、マリウスを利用するのは、卑怯だと思う。
シリアナは右手をのばし、マリウスの頭を抱きしめてささやく。
「違うの。あなたが殺したのは、わたしの異母兄です」
マリウスの動きがとまる。マリウスは左手をシリアナの下穿きの中から引き抜くと、顔を上げて、シリアナの頭の脇に両手をついた。
「どういうことです?」
「あの首飾りは、異母兄に渡したものです」
シリアナは二の腕までずりさがってしまった肩ひもを元に戻し、肌着の中に胸を隠しながら応える。
「では、私は貴女の兄上を?」
「ええ。わたしの父は、第五十三代ダナーン聖公国国王エルネスト陛下の弟でした」
「では、貴女はバレ王家の?」
「いいえ」
シリアナは首を振る。
「ダナーン族の純血主義はご存知でしょう。わたしの父は、シラールの民に恋をしました。それはダナーンでは許されることではなかった。父は、ダナーンでの地位も王族として名誉もすべて捨て、わたしの母と生きるため、シラールの民となりました。
わたしはバズド族の一員として、シリン高原で生まれ育ちました。自らがシラールの民であることを恥ずかしく思ったことはありません。ですが三年前、わたしの部族は他部族に襲われ滅びました。その時わたしは、父の生家であるバレ王家を頼って逃げ延びました。その時に初めて出会った兄妹です。
屋敷に部屋を与え、衣食住を保障し、異母兄はわたしによくはしてくれましたけど、蛮族の血の交じったわたしを、妹と思ったことは一度もなかったでしょう。事実わたしは、かの国で、王家の一員とした遇されたことは一度もありません。異母兄は父に対する義務から、わたしの面倒をみていました。
かの国でのわたしの正式な名は、シリアナ・シリンです。バレ王家の名を名乗ることは許されていませんでした。
それに婚約者も、わたしがシリン高原でバズド族の一員として暮らしていた時に、親が決めたものです。
彼のことは、実の兄のように慕っていました。でも、あの頃は幼くて、恋と友情の区別もつかなかった。
だからあなたが、わたしに対して気に病むことは何もないんです。きれいな髪ですね」
言ってシリアナは、マリウスの耳の横に流れる金髪をすく。
シリアナの指の間からこぼれ落ちるマリウスの金髪が、窓から差し込む光を反射して、きらきらと輝いた。
「それを言うなら貴女の髪の方が美しい。まるで、夜の闇を閉じ込めたかのかのように深い色をしている」
言ってマリウスは、枕の上に流れるシリアナの癖のない黒髪を一房とって口づけた。
「私は、貴女の兄上を貴女の婚約者だと思い込んでいた。純血主義の強いダナーンにおいても、シラールの民である貴女と婚約するほど、貴女を愛していたのだと思っていました」
「まさか」
シリアナは喉の奥で笑った。
「異母兄はどこまでもバレ王家の人間でした。一族の純血を尊び、ダナーン女神への信仰に生きた人でした。そんな異母兄です。ダナーン族の女性以外を愛することはなかったでしょう。でもわたしは、いつも異母兄がうらやましかった」
「どうして?」
「異母兄はいつも、自分が信じるものを疑わず、それに対して真っすぐでした。時にそれが、異母兄を高慢にすることもありました。でもすべて、わたしがバズド族が滅びたあの日に失ったものでした。
それより、部族に関係なく、シリン高原に住むすべての人人に共通して伝わる歌があるんです。わたしも好きだった歌です」
「貴女の好きな歌なら聴いてみたい。歌ってもらえませんか」
――悲しみも喜びもすべては風に流そう
――死者の魂は女神に委ね
――今を言祝ごう
――それが我らのつとめ
――我らが使命
――今を喜び
――今を歌え
――幸いの風は常に我らともにあらん
シリアナは節をつけて歌を歌う。
マリウスは目を閉じてじっと聴いていたが、歌が終わると目を開けて言う。
「兵たちの中にいるシラールの民が歌っているのを聞いたことがあります。きれいだ。だが、物悲しくなる旋律ですね」
「ええ。ですが、シリン高原に住む人人は、この歌を歌って日日を過ごします。
シリン高原がどんなに厳しい場所がごぞんじですか?」
「書物では読んだことがあります。一年中、山から吹き下ろす冷たく乾いた風が吹き、土地は痩せ、乾いた土地に茂るのは、背の低い牧草ばかり。だがそれも、夏になれば、乾燥からほとんどの植物は枯れ、冬になれば大地は雪に覆われてしまうのだと」
「ええ。ですから部族同士の小競り合いもしょっちゅうです。牧草のなくなる季節は特に。外からものを手に入れるにも金が必要です。どうやって金を手に入れるかご存知ですか?」
「いいえ」
マリウスが首を振る。
「他の部族を襲うんです。襲って羊を手に入れ、それを売る。もしくは、女子どもを攫って、奴隷として売りさばく。そうやって金を手に入れ、外のものを買い、厳しい季節を耐えしのぎます。だから、失ったものを悲しんでいては前に進めない。人人はこの歌を歌って、自分たちの心を慰めながら生きていくんです。
でもわたしは、ずっと後悔していました。三年前のあの日、一人生き延びてしまったことを。
それからは、二度と、風の声を聞けることはないと思っていました。でも、貴方と出会って変わった。貴方と出会ってようやく、わたしは再び風の声を聞くことができたんです」
比喩ではない。シリアナは風の巫女だ。
風の精の声を聞き、大地の血潮を感じ、草木とともに歌を歌い、星を見て、過去を、現在を、未来を占う。
三年前に自らの意志で力を封じ、シリアナはシーリーン女神から心を閉ざした。それを再び開くきっかけとなったのは、ダナティアを発つ三日前の晩に起きたクローディアの逃走だ。
でも、今、目の前にいる男がいなければ、マリウスがシリアナをダナーンから解放してくれなければ、シリアナは今も、シーリーン女神に心を閉ざしたままだっただろう。
「公爵様はわたしを、悲しみの中から救い出してくれました。公爵様は、シーリーン女神がわたしに与えてくださった、わたしの幸いの風です」
シリアナは手を伸ばし、マリウスの左頬に触れる。
「公爵様が望まれるのなら、どうかわたしを公爵様の妻にしてください」
「私の気持ちは知っているでしょう」
マリウスは言って、シリアナの右手をとると、その甲に口づけた。
「どうか公爵様の望むままに」
シリアナは言って、マリウスの手から右手を引き抜くと彼の後頭部に回し、彼の頭を胸に抱き寄せた。
「私は幸せ者です。貴女を自分のものにできるのだから。でも、貴女には辛いかもしれない」
「構いません。公爵様の与えてくださるものなら、わたしは歓んで受け入れます」
シリアナはマリウスの髪をなでながら、彼の頭にそっと唇を寄せた。
「もう、貴女に許しは請いません」
言ってマリウスは、顔を上げた。菫色の瞳がまっすぐにシリアナのことを見つめている。
シリアナは頭を持ち上げ、彼に口づけた。
彼の片手が後頭部に回る。
どちらからともなく、二三度軽く口づけを交わす。
マリウスは唇でシリアナの下唇を軽くはさんだり舌先で軽く触れることを繰り返し、シリアナの唇を割り入ってきた。
裏側から歯列の下を優しくくすぐられる。
シリアナはくすぐったくて顔を離そうとする。
マリウスが後ろに退くシリアナを追いかけてくる。
後頭部が枕にぶつかり、それ以上逃げられなくなる。
マリウスはシリアナの後頭部と枕の間から手を引き抜き、シリアナの顎をつかむ。
力強くシリアナの唇を吸いながら、さらに深くシリアナの口腔に舌をすすめた。
マリウスの舌がシリアナの舌をとらえようと、ゆっくりと動く。
シリアナは彼の動きに合わせ、彼の舌に自分の舌を絡めるようにそっと触った。
マリウスは男女の行為にまだ慣れないシリアナに合わせて、優しくゆっくりと舌を動かし、シリアナを愛撫する。
マリウスの右手は、シリアナの脚に這わされ、脛から腿へと肌着をはだけさせながらゆっくりと上がってくる。
彼はそのまま右手をつかって、口づけの合間にシリアナの肌着を脱がした。
マリウスが、シリアナの肌着を投げ捨てる。マリウスの前に下穿きだけをまとった姿がさらされる。
恥ずかしくて、シリアナはマリウスから顔をそむける。
右腕をつかって胸の双丘を隠そうとしたが、マリウスはその手首をつかんで、枕の下に押えつけた。
「隠さないで。貴女の全てを知りたい」
言ってマリウスは、シリアナの胸の左右の頂を交互に軽くついばむ。
「やっ」
湿った感触に思わず声が漏れる。シリアナは慌てて左手で口をふさいだ。
「可愛い女性だ」
マリウスは面白そうに笑って、シリアナの口から左手をどかし、自らの手をシリアナの頬にそえると顔を上向かせた。
「言ったでしょう。貴女の全てを知りたいと。恥ずかしがらずに、貴女のその可愛らしい声も、甘い吐息も全て私に聞かせてください。貴女が今から私の与える全てのものを歓んで受け入れてくれたのなら、今この瞬間、私はこの世で一番の果報者になれるでしょう」
「今だけで構わないのですか?」
マリウスに主導権を握られているこの状況が面白くない。シリアナは少し拗ねた風を装って、マリウスに訊ねた。
「ええ。今この瞬間、貴女が私のものなのだと感じたい。そんな一瞬を、貴女と共に過ごす日日に積み上げていきたい。愛しています。シリアナ・ドゥ・オードラン」
言葉では勝てない。素直に言葉で応えるのはいやだった。シリアナはマリウスの首に両腕を絡めると、マリウスに口づけをした。
そんなシリアナの気持ちを知ってか、マリウスが喉の奥で笑う。
「勝気な女性だ」
シリアナは頭を枕に戻すと腕をおろして、ふい、と横を向いた。
マリウスがシリアナの頬をなでて静かに笑う。
「でも、そんな貴女が愛おしい。私は貴女に夢中です」
マリウスは言って、シリアナの首筋に、鎖骨の下に、左右の乳房の間に、腹部のくぼみに、順をたどって口づけを落とした。
マリウスが、シリアナの下穿きに手をかける。
シリアナは腕をのばし、マリウスの手のとどめようとしたが、マリウスはシリアナの脚から下穿きを引き抜いてしまう。
マリウスの前に、シリアナの裸体が露わになる。
「華奢で、でもよく引きしまっていて、それにこの肌理の細かい白い肌。綺麗な体だ」
マリウスは言って、シリアナの右足を折り曲げると、外側に開いた。
シリアナの秘所が外気にさらされる。
シリアナは恥ずかしくて体をよじって逃げようとしたが、しっかりとシリアナの脇腹を押さえたマリウスの左手は、それを赦さない。
マリウスが右腿の内側に口づけた。
「やっ」
甘噛みしながらマリウスの唇が、脚の付け根の方へと移動していく。
「やめて」
マリウスの髪に手を両手を差し入れ、首を左右に振ってシリアナは懇願した。
だがマリウスは動きをとめない。
シリアナの右脚をさらに広げると、左脚の内腿を強く吸いあげ、右手を秘所滑り込ませた。
マリウスは花唇の間に指を沈みこませて、シリアナの割れ目を何度もなぞる。
「やっ」
自分でも触れたことのない場所。マリウスの視線がそこに注がれているのを感じる。終わるのなら早く終わって欲しい。羞恥となかなか奥へ進もうとしない指の動きにもどかしさが募る。
行為をすすめて欲しいのかやめて欲しいのかわからなくなって、マリウスの手首をつかむ。
「お願い。早く」
眼をつむり、恥ずかしさを堪えて頼んだ。
「私は今すぐにでも貴女と繋がりたいが、貴女は初めてだ。慣らしておかないと、辛い思いをするのは貴女です。でも、どうしてもというのなら、貴女の希望に従いましょう」
マリウスが悪戯っぽく笑った。
今、この場の手綱を握っているのはマリウスだ。シリアナの自由になるものは何一つない。だがそれを、心地よいと思っている自分がいた。
マリウス肉厚な手がシリアナの左の脇腹をなでる。
くすぐったくて、シリアナはきゃっ、と悲鳴を上げる。
シリアナの緊張が緩んだすきに、マリウスがシリアナの秘所に口づけた。
突然のことに、シリアナは息を呑んで目を開けた。
「……公爵様、――そんな場所……」
シリアナはマリウスの頭を両手でつかんで引きはがそうとする。それとマリウスが、シリアナの一番敏感な場所を口に含んだのは同時だった。
「――っやあぁぁっ――」
快楽が、シリアナの背筋を通って、頭の天辺まで走り抜けた。
マリウスの頭を強く掴んでシリアナは体を弓なりに反らし、甲高い悲鳴を上げた。
「……お願い、やめてください」
立てていた左膝から力が抜ける。
シリアナは寝台の上にだらしなく脚を放りだし、あえぎ声の下からマリウスに頼んだ。
しかしマリウスはやめようとしない。
脇腹を押さえていたはずの左手が、シリアナの下生えをなで、さらへ下へとさがる。
二本の指で、花唇の上部を割り開き、奥に隠れていた花芯をさらけだし、軽く唇に咥えたり、舌で愛撫したりする。
敏感な花芯に与えられる温かく湿った感触が、シリアナの快楽を呼び覚ます。マリウスがその場所に触れる度、シリアナは体をのけぞらせ、あえぎ声を上げた。
「早くして欲しいと言ったのは貴女でしょう」
花芯を愛撫する合間に、マリウスがささやいた。
マリウスの唾液にぬれた花唇は敏感になっている。花芯にかかるマリウスの吐息に、シリアナの背筋が粟立った。
花唇の下の方をなぞっていたマリウスの右手が、シリアナの左腿の内側にそえられ、大きく脚を開かさられる。
「貴女の貞操を守る襞がふっくらとふくらんで、薄紅色に染まっている。気持ちよかったですか」
シリアナの秘所を見て、マリウスが言う。
恥ずかしい。だからといって、男の前にさらされた秘所を自分の掌で隠すのは、この行為の卑猥さを自ら肯定しているような気がしてできない。
シリアナは右腕を両目の上にのせ、左手でぎゅっと敷布を握り、首を左右に振った。
「素直になってしまえば楽なのに」
マリウスが面白そうに笑い、充血したシリアナの花唇を指で軽くはじいた。
「――ひゃっ」
痛みとむずがゆさ、そして背骨を伝って頭頂部まで駆け抜けていった快感に、シリアナは両目の上から腕をどかし、思わず声を上げた。
マリウスがシリアナ開いた脚の間に座っている。彼は愉快そうに笑っていた。
「どうしてあんなこと」
シリアナはマリウスの行為に抗議する。
「初めての貴女に恥ずかしがるなと言うのは無理でしょうが、私は貴女に少しでも悦びを感じて欲しいと思っています。これだけは忘れないでください」
シリアナの頭の両脇に手をつくとマリウスは、シリアナの瞳を見つめて言い、そっと口づけた。
マリウスの体温がゆっくりと離れていく。シリアナは口づけの時に閉じた目を開けた。
「公爵様?」
シリアナの呼びかけに、シャツを脱ぎながらマリウスが微笑んだ。
マリウスは脱いだシャツをその場に置く。
鍛えられ、厚く盛り上がった胸。見事に腹筋が割れ、陰影のはっきりとした腹。剣を振るうための筋肉のついた太くたくましい腕。マリウスの上半身は、戦士としてよく訓練されていることのわかる堂堂とした体つきをしていた。
これから男とすることを考えると恥ずかしい。シリアナは顔をそむけた。
マリウスが喉の奥で秘かに笑う。シリアナの隣に体を横向きに横たえ、片肘を寝台の上につき、握った拳で頭を支える。
「少し慣らしておかないと。辛いのは貴女です」
マリウスは片手でシリアナの脚の付け根を割り、指先で花唇をそっとなぞる。
「――やっ……」
襞をかき分け、マリウスの指先が秘所に侵入してくる。
その場所に、ちりちりと引き攣れるような、かすかな痛みを感じる。
マリウスはそれ以上指を奥に進めることはせず、胎で円を描くように、狭隘の縁にそってゆっくりと指を動かした。
シリアナ自身、自分の身体の中にそんな場所があるなんて知らなかった。まだ何者も受け入れたことのないそこは、きつく狭まっている。無理矢理押し広げられる違和感。敷布を両手でしっかりと握り、マリウスの手首を太ももの間にはさんで、下肢をきゅっと締めつけた。
「大丈夫。力を抜いて」
マリウスの言葉にシリアナは、吐き出す息とともに下肢に込めた力を抜いてみる。その時機を見計らって、マリウスは一気に指を奥に進めた。
「あっ、いやっ……」
我慢できないほど痛いわけではない。ただ、初めて存在を知ったその場所で感じる、男の節ばった太い指に恐怖を覚える。
シリアナは首を左右に振り、身体を横にすると男の背に片手を回して、その逞しい胸に顔を押しつけた。
マリウスが静かに笑う。マリウスの胸に押しつけた顔の部分から、その振動を感じた。
「お願い、やめ……」
だがその言葉は最後まで言えない。
マリウスが内壁を軽くひっかくように、指先を胎で曲げたからだ。
「あっ、やぁっ」
痛いと言うのとも違う。初めて受け入れた異物を拒否するかのように、そこはマリウスの指をきゅっと締めつける。
膣内をぎちぎちと満たす圧迫感に、シリアナは腰を退いて首を振る。
「広げた方が楽でしょう」
マリウスは言い、自らの体を乗り上げながら、シリアナの体を仰向けに倒した。
膝頭でシリアナの脚を割り、体を押し入れる。
シリアナの膝の横に手を当てると、大きく開かせ、膝を曲げて持ち上げる。
自分でも、膣内がわずかに広がったのがわかった。
円を描くように、マリウスが大きく指を動かした。
ごりりと内壁を削られるような、鈍い痛みを身体の奥で感じた。
「やぁっ」
シリアナは枕の上で首を振ると、片手でマリウスの肩を押した。
「痛かったですか?」
マリウスが心配そうにシリアナのことを見つめていた。シリアナはこくりと頷く。
「気が急いでしまいました。もうしわけありません」
マリウスは幼い子をなだめるように、シリアナの左のこめかみに口づけを落とした。
頬に、首筋に、胸の二つの頂き、そして脇腹、膝を深く折り曲げさせられた左の太ももの内側と、順をたどって口づけは下におりてくる。そしてマリウスは、一番敏感な花芯をそれを包み込む襞ごと唇ではさんだ。
「やあぁぁっ」
花芯をつぶされ、じれったいような痛みを感じる。シリアナは善がり声とも悲鳴ともつかない声をあげた。
自分でも初めて聞いたその声をに驚き、シリアナは手の甲で口をふさいだ。
シリアナの反応に気をよくしたのか、花芯から唇を離し、マリウスが低い声で笑う。
マリウスの吐息が、マリウスの唾液に濡れて一段と感じやすくなったその場所にかかる。
くすぐったいような、こそばゆいような感覚が背筋を駆け上がる。シリアナはぶるりと体を震わせた。
「ここが一番気持ちいいようですね」
マリウスは言い、花芯を隠すように存在する襞を舌でそっとめくると、舌で執拗に花芯を愛撫する。
「あっ、やぁっ」
ざらりとした舌の表面が花芯をなでる度、喉の奥からはしたない声がせり上がってくる。
その出口を手の甲でふさいでいては呼吸をするのも苦しくて、シリアナは口許に載せていた手を下ろした。
与えられ快楽が苦しくて、シリアナが腰を退いて逃げようとすれば、胎に入ったマリウスの指が、追いかけるように奥へと侵入してくる。
肩口が枕に乗り上げる。寝台の飾り板に頭がぶつかる。シリアナは体を横にひねって逃げようとしようとしたが、マリウスに脇腹をつかまれはばまれる。
片脚を男の肩にかけたみっともない格好。
シリアナの両脚の間で、舌と唇をたくみにつかって花芯を愛撫する、マリウスの上半身が忙しなく上下に動いている。
男の動きに合わせ、男の肩にかけたシリアナのつま先がこぎざみに揺れている。
恥ずかしい。何も見たくなくてシリアナは目をつむる。と逆に、マリウスがシリアナの花芯を愛撫するぴちゃぴちゃと卑猥な水音と男の荒い息遣いが、シリアナの耳朶に響く。
「っはぁ」
背筋から頭頂部までゆっくりと昇ってくる快感をやり過ごすため、シリアナは小さく吐息を漏らす。
何か物足りない。うずくような快楽が、臀部と腰の境目、そして下腹部に溜まってくる。
やめて欲しいのか、続けて欲しいのかわからない。シリアナは左手をマリウスの頭に伸ばし、髪の中に手をさしこんだ。
花芯への舌での愛撫はやめず、マリウスが膣内に二本目の指を遠慮なくさしこんだ。
「やあぁぁぁっ」
内壁をとろりと愛液が伝い落ちる。胎から分泌された潤滑油は、シリアナの脚の付け根までしとどに濡らしていた。
そのおかげで痛みこそ和らいだものの、質量を増やされればやはり辛い。
内壁がマリウスの指をぎちぎちと締めつける。
それに逆らうように、マリウスが胎で二本の指をゆっくりと開く。
無理矢理押し開かれ、ぎしぎしと軋むような痛みを身体の奥深くで感じる。
「いやぁっ」
シリアナは喉をのけぞらせて叫んだ。
マリウスが痛みをなだめるように、シリアナの花芯を上下の唇でそっとはさみ、律動的に力を加えたり緩めたりする。その合間に、花芯の先端をちろちろと舌先でつつかれる。
「っはぁ、ゃぁっ」
花芯の頂きからじんじんとしびれるような感覚がわき起こり、全身に広がっていく。
シリアナはマリウスの頭にそえた両手のひらに力を入れ、首を左右に振った。
「はぁ、ぁあっ」
花芯から与えられる快楽だけでは物足りない。シリアナの胎の内壁がきゅっと狭まり、さらなる刺激をねだるように、マリウスの指をしめつける。
「ぁ、ぃやあっ」
自分の身体なのに、思うようにならない。そこだけが別の生き物のように、快楽を求めて蠢き出す。
手首の部分をゆっくりと回して、マリウスが広げた指を内壁になすりつけるようにする。
「あぁ、はあっ」
胎をえぐられるような痛み。シリアナは大きく口から息を吐いて、それをまぎらわす。
マリウスが花芯を唇ではみながら、時折舌で花芯の脇にやさしく触れる。
「ぁああ、やあぁ」
マリウスの濡れた舌が、花芯の脇の一箇所に触れるたび、シリアナの身体がびくりと痙攣する。
シリアナは枕の上で首を左右に振り、マリウスをそこから引きはがしたくて、両手でつかんだ彼の頭を軽く上に引っ張る。
マリウスはそれには応じず、花芯のシリアナが一番反応する場所を舌先で執拗に責め立てはじめた。
「あぁ、はぁあっ」
花唇の一番敏感な場所から、頭頂部へと走りぬけていく快感。とめどなく押し寄せるその快感を耐えるため、シリアナは短く息を吐き出す。
シリアナは、マリウスから与えられる快感に必死に堪える。それとは反対に、身体はマリウスから与えられるモノに素直に反応し、胸の鼓動は徐徐に増していき、シリアナの呼吸は忙しくなる。
「あっ、やぁっ」
一点に与えられる刺激。そこからひろがる快感に身体中が支配される。
身体の奥がきゅっと狭まる。足の甲が限界までそりかえり、つま先がぴんと伸びる。
内壁からの圧力により、開いていたマリウスの指先が閉じる。
それに反抗するように、マリウスが指先をぐっと奥につきいれる。
身体の一番奥、こつり、と行き止まりに当たったような痛み。
それなのにマリウスは、さらに奥を求めて、指を進めようとする。
「ぃやあぁぁ」
身体が引き裂かれる、そんな恐怖を覚え、シリアナは身体全体を反らし、悲鳴を上げた。
しかしマリウスは容赦しない。
指を少し引き抜くと、また奥を求めて指先をつきいれる。
「いやぁああ」
マリウスが狭隘の一番奥まった場所を指先でつつくたび、シリアナは悲鳴を上げた。
その間もマリウスは、花芯の一番敏感な場所を舌先で刺激することをやめない。
高まる快楽。シリアナの胎が、マリウスの指をさらに締め付け上げる。
マリウスは、シリアナの胎で指を上下に往復させるのをやめる。
代わりに二本の指の先をくいと少し曲げ、シリアナの一番感じる一箇所を指の腹でひっかき、小刻みに刺激する。
「あっ、はぁっ、やぁっ」
シリアナの口から嬌声が漏れる。
その間もマリウスは、シリアナの花芯の脇の部分を丹念に舌先で愛撫していた。
全身を満たしていく快楽。マリウスの舌先が花芯のその部分に触れる度、シリアナは喉の奥で息を呑みこむ。
膣が無意識にきゅっとしまる。胎の一番感じる場所に当たる、マリウスの指先を強く意識してしまう。
マリウスの舌先が、一瞬シリアナの花芯から離れた。
快楽が弱まる。シリアナの意志を無視して、全身を支配しようとする快楽から逃げようと、シリアナは吐く息とともに身体から力を抜く。
だが再びマリウスの舌先がシリアナの花芯に触れると、その努力も虚しく、快楽は背骨伝ってを駆け上がり、シリアナの全てを奪い去る。
「はぁっ、やぁっ」
シリアナは両手でマリウスの頭を掴んだまま、首を振る。
そんなシリアナの様子を面白がるように、マリウスが笑った。
「恥ずかしがらないで。私の愛撫に応える貴女はとても美しい」
マリウスはシリアナ秘所から顔を上げる。そこに差し入れていた二本の指をゆっくりと引き抜く。
内壁が擦れる感覚に、シリアナは思わず息を飲んだ。
マリウスは体を退きながら、自らの肩にかかったシリアナの脚の足首を右手でとった。
シリアナの両手が敷布の上に落ちる。
マリウスは寝台の上に座り、左手をシリアナの右足の裏にそえると、その足の甲にそっと口づけた。
「――公爵様、そんな場所に……」
マリウスが口づけをやめ、顔を上げる。足の甲からマリウスの体温が離れていく。
マリウスは自分の体の横にシリアナの足を置くと、シリアナを見て微笑んだ。
「私の生涯を愛とともに貴方の上に捧げます」
「わたしも、公爵様に相応しい妻になるとお約束いたします」
シリアナの言葉にマリウスは笑い、両手をシリアナの頭の脇につき、シリアナに覆いかぶさるような体勢をとると、シリアナのことをまっすぐに見つめてきた。
「私は、オードラン公爵家の夫人として貴女を望んだわけではありません。一人の男として、私は貴女が欲しかった。シリアナ、どうか私の名に愛を誓ってもらえませんか」
「――マリウス様」
シリアナは右手をマリウスの頬にのばし、言葉を続ける。
「いついかなる時も、たとえ逆風にさらされた時にも、シーリーン女神が二人の道を分かたぬ限り、貴方と共に人生を歩んでいくと誓います」
シラールの民が婚姻の儀式の際に伴侶となる相手に告げる言葉。それを口にし、シリアナは両腕をマリウスの広い肩に絡めると上体を持ち上げ、マリウスに口づけた。
目をつむり、彼の肩に這わせた掌で、マリウスの筋肉に覆われたたくましい背中を感じる。
マリウスは口づけをしたままリアナの体を寝台に押し戻し、上下の唇をはむような口づけを何度か繰り返した。
「私が今、どれほど幸せを感じているか分かりますか」
マリウスは上体を持ち上げ、シリアナのことを真っすぐに見つめて訊ねてきた。
シリアナは首を左右に振った。
「公爵様がなぜわたくしを望んでくださったのか、正直に言えば分かりません。シラールの民と言えば、ダナーンでは蔑まれることが常でしたから」
シリアナは顔を横に向け、マリウスから視線をはずした。
マリウスは静かに笑い、シリアナの頬に手を当てると、自分の方に向き直らせた。
「ダナーンで暮らしていたと言うのなら、貴女の恐れも当然だと思います。今すぐに私の心を信じて下さいとは言いません。ですが少しずつでも、私は貴女と心を通わせてゆきたい。それより、そろそろよいですか、シリアナ」
言ってマリウスは、まだ履いたままになっている下服越しに、自身の昂ぶりをシリアナの茂みに押しつけてきた。
固く盛り上がったマリウスの分身は何よりも雄弁に、シリアナの体を欲していると主張している。さっき散散マリウスに恥ずかしい場所を愛撫されたばかりだと言うのに、これから先マリウスにされることを考えて、カッとシリアナの頬に血が上る。先ほどマリウスから与えられた痛みと悦び。それにはまだ先がある。マリウスを正面から見つめているのは恥ずかしくて、シリアナは目を伏せた。
「怖い、ですか」
マリウスの問いに、シリアナは小さく頷いた。
唯一の財産とも言える家畜をいかに殖やすかは、シラールの民にとって重要な問題だった。毎年秋も深まってくると、雌羊たちを囲いの中に一箇所に集め、四十から六十頭程をまとめて、首の辺りに縄を結んで横に一列につなぐ。雌羊の準備が終わると、放牧させていた種雄を捕まえて連れてくる。囲いの中に連れてこられると雄羊は、一頭終わればまた次の一頭と、雌羊の上で休みなく腰を振り続ける。雌羊は足元にある草をはんだり、のんきに鳴いたりして、いつもと変わらぬ様子で自分の番が来るのを待っていた。ただ、生命を増やすためだけの行為。それは少しも快いものには見えなかった。
だが、マリウスから与えられたものは違った。生命を育むためだけの行為ではない。シリアナを求めるマリウスの肉欲の裏側には、常にシリアナのことを思いやる優しさがあった。
「ずっと、子を生すためだけ、肉欲を満たすためだけの行為だと思っていました」
シリアナの応えに、マリウスが笑った。
「確かに、子もできれば、肉欲も満たせるでしょう。だがそれ以上に、私は貴女を大切にしたいと思っている。私は貴女に愛を与えたい」
「公爵様の望むままに」
「貴女にはマリウスと呼んで欲しい」
「はい。マリウス様」
シリアナは男の名を小さく呼んで、頷いた。
「愛しています」
男は言い、シリアナの頤をつかむと、正面を向かせて、シリアナに口づけてくる。
舌先で唇を無理矢理押し割り、歯列をなぞり、口腔に深く侵入してくる。シリアナの舌を絡めとり、強く吸い上げる。
「うっぅ、ぅうん」
口腔に溜まった唾液の飲み下し、シリアナは鼻から息を吐く。
角度を変え、舌をしきりにうごめかし、男はシリアナを求めた。
口づけの合間にマリウスは、下服と肌着をまとめて脱いで、寝台の外に放ってしまう。
二人の間を遮るものは何もない。
硬く立ち上がった欲望を、マリウスがシリアナの腿のつけねの間にそっと当てた。
先ほどのマリウスの愛撫で、そこはすっかり濡れていた。
秘所の入り口を、マリウスが陰茎の先端で何度かこする。
覚悟してきたはずなのに。先ほどマリウスがそこに指を突き入れたときの痛みが脳裏に蘇り、恐怖を感じる。口づけをされたまま、シリアナは首を左右に振った。
マリウスは口づけをやめ、両腕で体を持ち上げ、上からシリアナを見下ろしてくる。
無理だと伝えたくて、シリアナは首を左右に振った。
マリウスは静かに笑い、シリアナの左の頬に手を当てた。
「大丈夫。無理はしませんから」
「――ですが……」
シリアナは下腹部の辺りをちらりと見る。天を仰いで張りつめたマリウス自身は太くたくましく、とても受け入れられるとは思えなかった。
「大切にします」
マリウスは言い、なだめるように、シリアナの額に口づけた。
左右のこめかみ、喉元、首筋、鎖骨、胸の二つの頂と、マリウスの口づけが、順を追って下におりてくる。
触れるだけの口づけは、男の鼻腔から吐き出される息とともに、シリアナの肌を弱く刺激した。
目を固くつむり、首をのけぞらせる。敷布をぎゅっと握り、シリアナはくすぐったさを堪えた。
マリウスの両手が膝頭に触った。強い力で握られる。
シリアナは目を開けた。
「そろそろ良いですか?」
マリウスが苦笑する。マリウスは自身の股間の間にちらりとに目をやった。
赤黒い色をした、大きく立ちあがった彼自身がそこにいた。周囲を這う太い血管が、皮膚を持ち上げ浮き上がっている。
無理だと思って、シリアナは首を左右に振る。
「もう、待ちません」
マリウスは宣言し、シリアナの膝を曲げ大きく開かせる。その間に自身の体を間に押し入れた。
広げた脚の間に男を迎え入れたあられもない姿。首をゆるく振って反抗する。
「大丈夫」
マリウスは言い、シリアナのこめかみに口づけた。
そのまま頬に唇を寄せ、音を立てて吸うと、小鳥がついばむような口づけをシリアナの唇に幾度ととなく繰り返す。
「つらかったら、私の背にしっかりとつかまて下さい」
マリウスは、寝台の上に投げ出されたままになっていたシリアナの両腕を取ると、自分の体に抱きつかせた。
「――っぅ!?」
花唇のすぐ奥。狭隘の入り口に生まれて初めて感じる圧迫感。押し入ろうとするマリウスの雄芯が、体を引き裂くかのような痛みを与える。
マリウスの広い背にすがり、シリアナは息を呑んだ。
狭隘の入り口がすぼまる。それでもマリウスは腰を進め、シリアナの躯を強引に割り開こうとする。
体を真っ二つに切り裂かれる。そんな恐怖を感じた。
シリアナは喉を反らせ、わき上がる悲鳴を唇を強く噛んで抑える。
マリウスはシリアナの腰をつかんだ手で、退きがちになるシリアナの体をしっかりと押さえ込む。
「――くっ」
マリウスが呻く。
「力を抜いてください。このままでは挿いらない」
このまま奥に、彼の欲望を迎え入れることが怖い。
シリアナは弱く首を振って、無理だと伝える。
「仕方がない。恨まないで下さい」
マリウスは言い、シリアナの腰をつかむ手に力を入れ勢いよく引き寄せた。と同時に、シリアナの花芯に腰を打ち付ける。
「――っ!? ぁ、いやぁぁぁぁぁ――」
悲鳴とも嬌声ともつかない叫び声が、シリアナの喉からほとばしった。
マリウスはそれを無視して肉塊で狭隘を押し開き、処女地を奥へ奥へと進める。
酷くつらかったのは最初だけだったが、マリウスが肉塊を前へ進める度に、みしみしと軋むような痛みが下肢を中心に体全体に響きわたる。
シリアナはマリウスの広い背に抱きつき、爪を立てた。
「挿いった」
マリウスが動きをとめ、ほっと息をついて言った。
マリウスが片手で、しっかりと自身に抱きついていたシリアナの体を引きはがす。
いつの間にか浮いていた背を、寝台の上に落ち着けられた。
マリウスがシリアナの顔の脇に両手をついて、上体を持ち上げる。
そのわずかな動きが下肢から伝わり、胎にこすれるような痛みを感じる。シリアナはかすかに顔をしかめた。
「大丈夫ですか?」
お互いのわずかな動きでも下肢に伝わり、胎内に他者の存在を強く感じる。
それを感じたくなくて、シリアナは小さく頷いた。
「マリウス、さまは?」
「幸せです。愛する女性と一つになれたのですから」
マリウスが目を細め、目尻を下げて笑う。
真っすぐに向けられる愛情がこそばゆい。
シリアナは首を横にひねり、顔をそらした。
「貴女に、愛を向けて欲しいと望むのは早計だと分かっています。こうして受け入れてもらえるだけで十分なのだと。でもいつか、貴女も私を愛してくれますか?」
寝台の上に広がった、シリアナの髪を優しくなでながらマリウスが言う。
その真摯な声音に、シリアナはマリウスのことを正面から見つめた。
男は少し寂しそうに笑っていた。
シリアナは、マリウスの左頬に手を伸ばす。
「人の心は気ままに吹く風のようなものです。自分自身でさえ自由にできない。未来のことは約束できません。
でも、愛は育むことができるのだと両親が言っていました。お互いの心がけ次第で深まっていくものだとも。
今の私に、両親のその言葉の意味は理解かりません。でも、貴方とならともに、生きていきたいと思っています。貴方とともに、両親の言っていた言葉の意味を実感してみたい。今日から先、わたしの魂がシーリーン女神の御下に還るまで、貴方の隣を歩むことを赦していただけますか」
「もちろんです」
言ってマリウスが、シリアナの体を抱きしめた。
マリウスの雄芯がすれて痛みを感じる。
シリアナの口から、うっ、とうめき声が漏れた。
マリウスがシリアナの体を放す。
「大丈夫ですか?」
シリアナは頷く。
「なら、このまま続けても?」
素直に応えるのは恥ずかしい。シリアナは少し目を伏せ頷いた。
「なるべく早く終わらせます。つらければ私につかまっていて下さい」
マリウスは言って、シリアナの腕を取ると、自らの背にまわさせた。
シリアナの様子をうかがうように、マリウスはゆっくりと腰を前後に一二回動かした。
「――ひゃっ……」
引き攣れるような痛みに、小さく悲鳴が漏れた。
筋肉の盛り上がったマリウスの肩を抱く手に、力を込める。
それを合図とばかりに、マリウスが雄芯を動かす速度を上げる。
「――ぃゃぁあ」
マリウスの肉塊が抜き差しされる度に感じる痛みに、シリアナは悲鳴を上げる。
「もう少し、我慢して」
マリウスは両手で、しっかりとシリアナの腰を抑える。
マリウスの欲望が、狭隘の一番奥にこつりと当たる度、シリアナの口から悲鳴が漏れる。
「――っはぁ……、――いやぁ……、ぁあっ……、――ぅうんっ」
マリウスはそれを無視して、腰をシリアナの下肢に打ち付ける。
痛みに耐えかね、シリアナは広げた脚でマリウスの体を挟み込む。
すると花芯の奥も締まって、余計に胎内のマリウスの存在を感じる。
「――いやぁ」
シリアナは首を左右に振った。
「あと、すこしですから」
マリウスが苦しげにつぶやく。
その声に、うっすらと瞼を持ち上げ、痛みに知らず知らずの内に閉じていた瞳をシリアナは開いた。
掌で感じる彼の素肌は汗ばんでいる。
顔の横に落ちかかった髪が、汗の流れる彼の頬に何本か張り付いていた。
マリウスの肩に載せていた手をずらして、明るい金色の髪の上から彼の頬を触った。
マリウスがはっとしたように動きをとめる。シリアナは男に向かって微笑んだ。
「貴方はわたしの幸いの風です。わたしも貴方の幸いの風になりたい。どうかわたしを貴方のものに」
「初めからそのつもりです」
マリウスからとも、シリアナからともなく口づける。
何度か互いの唇を寄せ合い、軽くはむ。
マリウスはシリアナの後頭部に手を回し、深く口づけた。
「――っぅうん」
シリアナは喉の奥で息を飲み込む。
マリウスは、歯列の間をかいくぐり、舌を奥へ差し込むと同時に、再び腰の動きを開始した。
シリアナは、マリウスの頭と肩に回した手で、男の体をしっかりと抱きしめる。
マリウスの舌は、シリアナの舌を絡めとり、しっかりと吸い上げる。
マリウスの腰の動きが早くなる。肉と肉がぶつかり合う音、シリアナの下肢から溢れ出した体液が、マリウスのたくましい雄芯にかき混ぜられて発する淫靡な水音、欲を求めて体を動かす男の荒い鼻息、互いの唇が近づいてはまた離れるたびに起きる破裂音、二人の唾液が交じり合い、絡まり合う音。睦み合う男女のおこす卑猥な音が、室内を満たす。
「っぅ、うぅんっ」
下肢の痛みは弱まらない。マリウスの肉塊が、狭隘の内襞をこすり上げる度に強くなっていく。
マリウスに口づけられたままでは、声はでない。シリアナは、喉からわき上がる悲鳴を、鼻息とともに逃がす。
マリウスの雄芯の先が、シリアナの胎内の一番深い場所に当たった。
「――ぅうん!?」
その瞬間、シリアナは思わず息をのんだ。
マリウスは、シリアナの後頭部と肩を支えていた手を放す。
シリアナの腰をつかんで、自身に向かって強く引きつける。
「くぅっ……」
マリウスは苦しげに目をつむり、うめき声を上げる。
シリアナの胎でマリウスの肉塊がふくれあがり、一際熱を持つ。
マリウスは雄芯をわずかに退いて、再びシリアナの一番深い場所に打ちつけた。
「――ぁ、あぁぁっ――――」
喉を反らしたシリアナの口から悲鳴が漏れる。
マリウスの雄芯から迸った熱い飛沫が、シリアナの一番深い場所を濡らす。
「ぃ、いやぁ」
シリアナは首を振る。
マリウスはさらに深く、シリアナの腰を引きつける。
シリアナの胎のマリウスが、痙攣するように幾度か小刻みに動く。その度に、マリウスの欲望が雄芯の先から溢れ出した。
「はぁっ」
痙攣が収まって、マリウスが息を漏らす。
マリウスはそのまま、自分自身をシリアナの胎からずるりと引き抜く。
マリウスが吐き出した欲によって、最初と比べ楽にはなったが、マリウスの雄芯が内壁をこする時の引き攣れるような痛みに、シリアナは眉をしかめた。
マリウスが去ると同時に、狭隘の入り口から下肢を伝って、何かが流れ出たのがわかった。
シリアナは頭を持ち上げ、開いて投げ出されたままになった自分の脚の間を見た。
シリアナの破瓜の血と交じり合って薄紅色になったマリウスの欲望が、シリアナの股の間の茂みから溢れ出し、敷布を汚していた。
「――ぃや」
敷布の上ににはっきりと残った先ほどまでの行為の名残を見て、途端に恥ずかしくなる。
男を迎え入れるため、先ほどまで目一杯開かされていた脚は怠く動かない。
シリアナは首を回して、掛布を探す。
それに気づいたマリウスは小さく笑い、床の上に落ちていた白い薄布でできた掛布を拾うと、シリアナの体にかけた。
「体はつらくはないですか?」
マリウスの問いかけにシリアナは首を振る。
寝台の上に座ろうと、両手に力を入れ体を持ち上げようとした。
「――っう……」
下肢に感じた痛みに、シリアナはにうめき声を上げる。
シリアナが少しでも動こうとすると、下肢から腰にかけ、きりりと鋭い痛みが走る。
「しばらくじっとしていた方がいでしょう。着るのに楽なものを持ってきますから」
マリウスは言って、シリアナの額にかかる髪をかき分け、口づけた。
マリウスは床に散らばる二人の服を集めて、手早く自分の分だけ身につける。
「待っていてください。すぐに戻ってきます」
シリアナの服を持ってマリウスは言い、部屋を出て行った。
マリウスに手を取られる。
長椅子から立ち上がり、シリアナはマリウスに導かれるまま、続きの間へ向かった。
マリウスが扉を開ける。中を見て、シリアナの足がすくむ。
部屋の中央には、天蓋つきの大きな寝台が置かれていた。
先に部屋に入っていたマリウスがふり返る。
シリアナはマリウスに握られていた手を取り返し、もう片方の手で胸の前に握りこむ。うつむいて、首を左右に振った。
「怖い、ですか?」
マリウスに訊ねられ、シリアナは頷いた。
「公爵様のおかげで命を長らえたというのに、敗戦国の女が、往生際が悪いとお思いでしょう」
「いいえ」
穏やかだが力強い声に、シリアナは顔を上げた。
マリウスがシリアナとの距離を一歩つめる。マリウスの肉厚な手がそっと頬に触れ、すぐに離れていった。
「だが、私は貴女が欲しい。貴女のすべてを私は欲しい。そして望むべくなら、喜びも悲しみも苦しみも、すべてを貴方と分かち合い、貴女と共にある人生を送りたい。改めて貴女に求婚させてください」
言ってマリウスは、片膝を立てひざまずき、シリアナのことを見上げた。
「バズド=ナキ・バジス=アミ・ダナ=アミ・スレ・シーリーン・スレ・アナどうか私の妻に。これから先、貴女の側に私がよりそうことを許してください」
「……わたしは、蛮族の……シラールの民です。公爵様の妻になるのに相応しい女ではございません。それなのに、本当に、わたしでよろしいのですか」
「貴女が何者であろうと、初めて貴女と出会ったあの瞬間から、私の心は貴女の上にあります。私の気持ちを受け取ってくれるなら、どうか貴女の手を私に預けてください」
マリウスが掌を上に、シリアナの前に手を掲げた。
ためらって、その上にシリアナは自分の右手を重ねた。
マリウスは素早い動きで左手でシリアナの手首をつかみ、立ち上がる。シリアナの体を自分の方へ引き寄せ、触れるだけの口づけをした。
「――公爵様……」
シリアナの呼びかけに、顔を上げてほほ笑んだ。
「何も心配せずに、すべて私にゆだねてください。決して、貴女を傷つけるようなことはしませんから」
シリアナは頷いた。
マリウスがシリアナを横抱きにする。
足元を支えていたはずの床の感覚が突然なくなり、シリアナは驚く。マリウスの首にしがみついた。
マリウスが静かに笑う。マリウスの首筋に寄せていた額から、彼の喉元が震えたのを感じた。
シリアナを抱えたまま、マリウスは寝台まで行く。
寝台の横に片膝をつくと、シリアナの体を寝台の上に横たえた。
首にまわされたままになっているシリアナの腕を外して、マリウスが寝台から少し離れた。
首元を飾る薄布をほどき、シャツの前をくつろげる。
よく鍛え上げられた逞しい胸があらわになった。
シリアナは首を回して顔をそむける。敷布を両手でぎゅっと握った。
「貴女が怖いと思うのは当然ですが、それでも私は貴女が欲しい」
マリウスが、寝台に片足を乗りあげる。脇腹の横辺りで、寝台が沈み込んだのがわかった。
「今、私の胸が、どんなにか貴女を求めて、高鳴っているか分かりますか?」
シリアナは、マリウスのことは見ずに首を左右に振った。
「なら、触れてみてください」
きつく敷布を握ったシリアナの右手に、マリウスの大きく力強い手が重ねられる。
マリウスの武人らしい太い指が、いたわるようにシリアナの手の甲をなでる。優しいその動きに、シリアナの手から少しずつ力が抜けていく。
マリウスはシリアナの手を持ち上げると、自分の左胸にシリアナの掌を触らせた。
「感じますか? 貴女を求めて早鐘を打つ私の胸の鼓動を」
外気にさらされひんやりとした肌の下で、とくとくと鳴るマリウスの胸の鼓動を感じる。マリウスの血潮が熱く波打っている。
「どうして?」
「言ったでしょう。初めてあったあの瞬間から、私は貴女に恋したのだと」
マリウスは靴をその場に脱ぎ捨て、寝台の上に乗り、シリアナをまたいで、両手をシリアナの顔の横についた。
「愛しています」
言ってマリウスがシリアナの首筋に口づけた。
「……あっ」
首筋の薄い肌を力強く吸われる。ちりりとした痛みに、シリアナは思わず声を上げた。
顔を離すと、マリウスは両肘を寝台につきシリアナの頭を抱き込む。シリアナに正面を向かせた。
顔の左右から落ちかかった金髪が、マリウスの彫りの深い顔立ちにかかる陰影を濃くしていた。
菫色の瞳がすぐ目の前で、熱っぽくシリアナのことを見つめている。
気恥ずかしくなり、首を回して顔をそむけようとしたが、しっかりとシリアナの頭を押さえたマリウスの両手がそれを許さない。
シリアナはマリウスから視線を外し、彼の肩を掴んで自分から引きはがそうとした。
しかし、男の大きな体は、シリアナの細い腕の力では微動だにしない。
マリウスが再びシリアナの首筋に顔を寄せる。
先ほどと同じ個所を軽く吸われ、ざらついた舌先でなめられる。
「あっ」
湿った、生温かい感触に思わず声がもれた。
「いや」
シリアナは言って、マリウスの頭に手をかける。
マリウスはシリアナの抵抗など気にせず、シリアナの首筋に幾度も口づけを落とすと、シリアナの唇をふさいだ。
「うっ、ぅうん」
シリアナは目をつむり、首をそらして、喉の奥であえぎ声をあげる。
シリアナの頭を押さえていたマリウスの左手が、服の上からシリアナの体の線をなぞって、ゆっくりと下におりていく。
その間も角度を変えて、マリウスは何度もシリアナに口づけを落とした。
スカートの上から、マリウスの左手がシリアナの太ももの辺りをそっとなでる。
布越しに感じるマリウスの大きな掌の体温がじれったい。シリアナは腿の内側をこすり合わせた。
マリウスの弾力のある唇がシリアナの小さな唇を包み込み、軽くすい上げる。
上唇の端の敏感な部分を舌先でちろちろとなめられる。
くすぐったさに思わずシリアナが口を開けると、わずかに開いたその隙間から、マリウスの舌が押し入ってきた。
突然のことにシリアナは体をすくめる。マリウスはシリアナを気づかうように、奥に縮こまったシリアナの舌に自身の舌をゆっくりと絡めて、強くすい上げた。
「うっ、うぅん」
シリアナの鼻から甘い声がぬける。今までに聞いたことのない声に、自分でも驚いてシリアナは目を開ける。
マリウスは交じり合った二人の唾液を音を立てて嚥下し、シリアナの頭の横に掌をついて、体を起こす。
真っすぐに見つめてくるマリウスの視線が恥ずかしくて、シリアナは濡れた唇の上に握った右手をおくと、首を曲げて顔をそらした。
「恥ずかしがらないで。私は貴女をもっと知りたい」
マリウスはシリアナの唇の上から握った右手を外させると、シリアナの頬に手を当て、ゆっくりと顔を上向かせた。
マリウスの菫色の瞳が、優しくシリアナのことを映している。
マリウスは左掌をシリアナの髪に差し込んで、指先だけでシリアナの頭をなでた。
シリアナはマリウスの手の指を握って、その動きをやめさせる。
「公爵様の女になるのだと覚悟してきました。お願いです。奪うのなら、力のままに奪ってください」
「私は貴女を愛しています。能う限り貴女を大切にしたい」
マリウスはシリアナの手を寝台の上におく。シリアナの頬に掌をあて、シリアナの気持ちを落ち着かせるように、触れるだけの何度も口づけを繰り返した。
唇から顎、顎から喉へ。口づけは次第に下におりていく。
「あっ」
喉元に口づけられる。
急所を触れられ、本能的に恐怖を感じる。
シリアナは喉をそらせ、小さく悲鳴をあげた。
マリウスはそれに構わず口づけを続ける。
マリウスはシリアナの首筋に口づけ、シリアナの体を反転させた。
「やっ、なっ、なに」
マリウスの手が、シリアナのドレスの背中の部分をとめる釦にかかる。
シリアナは振り返った。
うつぶせになったシリアナの腰に、マリウスが馬乗りになっている。両腕は体の脇でマリウスに脚に固定され、抵抗できない。
シリアナが戸惑っている内に、マリウスは器用に、背中の釦をすべて外してしまう。
その間も、シリアナの首筋から肩にかけ、降る口づけがやむことはなかった。
「やめて」
マリウスは、シリアナのドレスを頭からひきぬき、床に放り上げる。
続いて、まだはいたままだった靴も靴下もすべてはぎ取られる。
身につけるものは、袖のない上衣とふくらはぎまでの長さのスカートを縫い合わせた肌着だけになる。
マリウスはシリアナの腰に手をあて、シリアナの体を反転させた。
シリアナは両目の上に腕をおいて首を振り、マリウスに弱弱しく抗議した。
「……やめて、ください」
バズド族が滅び、一人生き延びたあの日から、誰かに罰せられることを望んできた。
愛されたいなんて思わない。強引に、男の欲望のままにすべてを暴かれてしまえば、どんなに楽だろう。
シリアナの眦から涙が落ちる。
マリウスが、両目の上におかれていたシリアナの腕をどかす。眦からこめかみへと流れる涙を見て、マリウスが大きく息を吐く。
「婚約者のことが忘れられませんか? だとしても私は、貴女を求める心を留めることはできません。貴女に愛してもらいたいとは望みません。ただ、許されるのなら、どうか私を受け入れてください」
言ってマリウスは、シリアナの肩をそっとつかむと、左右の眦に唇を寄せ流れる涙を吸い取った。
そんなマリウスの真摯な優しさがつらい。
つむった眼から、さらに涙があふれ出す。
「泣かないでください」
マリウスの手が、シリアナの左頬に寄せられる。親指で流れる涙をぬぐわれる。
マリウスは静かにシリアナの唇に口づけた。
「っぅ、うっぅん」
シリアナの鼻から、あえぎ声がぬける。
マリウスは、軽く唇を吸うだけの口づけを小刻みに繰り返す。
このまま彼に、すべてをゆだねきってしまいたい。
シリアナは、マリウスの広い肩に両手を回した。
マリウスの肩がびくりと揺れて、動きがとまる。
口づけをやめて、マリウスがシリアナのことを見つめてくる。
「やめないで」
シリアナは、頭を持ち上げ自分からマリウスに口づけた。
はだけたマリウスのシャツの前ごろもと、シリアナの肌着がふれあって、衣擦れの音がする。
薄い肌着の布越しに、マリウスの体温を感じた。
このまま何も考えずに、マリウスのものになってしまいたい。
シリアナは、マリウスのシャツを両手で握った。
突然積極的になったシリアナに、マリウスが驚いたように息を呑む。
シリアナは頭を枕につけると、左手でマリウスの頬を触り、笑いかけた。
「何も考えずに。どうかわたしを公爵様のものにしてください」
「いいのですか? このまま進めば、貴女がどんなに嫌がってもとめられなくなる」
「構いません。公爵様の好きにしてください」
シリアナはマリウスの体を抱きしめ、その広い胸に顔をうずめる。
少し汗ばんで、しっとりとした肌。首をまわして耳を寄せれば、マリウスの心音が聞こえてくる。先ほど掌で感じたときよりも少し早くなっているその鼓動に、彼が緊張しているのだとわかった。
「わたしの気が変わらないうちに早く」
マリウスの体を抱く腕に力をこめ、マリウスの胸に頬を寄せたままシリアナは懇願する。
「貴女の気持ちがどこにあろうとも、私は生涯貴女を愛し続けます」
マリウスは言うと、自らの胸からシリアナの顔をひきはがすし、シリアナの頭を枕へとおしつけた。
「だから、これから何をしようと私のことを許して欲しい」
「ええ」
シリアナは頷く。マリウスが口づけてくる。マリウスは性急に舌を差し入れる。シリアナは驚いて身をすくませた。
奥で縮こまったシリアナの舌に自らの舌をからめ、マリウスが強く吸い上げる。
左の手は、シリアナの体をまさぐり、肌着の裾を持ち上げる。そのまま肌着の中へと侵入し、膝の横から太ももへ、さするように這い上がる。
武人として剣を握ることに慣れたマリウスの手の皮は厚い。そのざらざらとした感触に、シリアナの肌が粟立つ。マリウスの大きな手が、臀部の横をつつみこむ。そしてそのまま長い指をのばして、腰との境目の辺りをゆっくりとなぞる。
くすぐったいのか気持ちいいのかわかならい。シリアナは身をよじって逃げようとするが、のしかかったマリウスの下半身の重みと、シリアナの頭を抱えこんだもう片方の手がそれを許さない。
「っぅう、うぅうん」
首を振り、喉をそらし、鼻から抜ける喘ぎ声でシリアナは抗議する。しかしマリウスは、口づけをやめることなく、さらに深くする。
マリウスの唇が、顎から喉へ、鎖骨へとおりていく。
鎖骨の内側の尖った部分をマリウスは音を立ててきつく吸い上げ、顔を離した。
「っあ」
遠ざかっていく体温が名残惜しくて、シリアナは思わず声を上げる。
シリアナの頭をおさえていたマリウスの左手が、首筋をなぞって下がり、肩の上でとまる。親指を鎖骨まで延ばし、マリウスは先ほど口づけたところを優しくなでた。
「痕がついている。貴女の白い肌が鬱血して、まるで花びらがさいたようだ」
マリウスは言って、シリアナの肩をおさえると、もう一度、音を立て、今度は触れるだけの口づけをそこにした。
マリウスの右手が、シリアナの肌着の肩ひもを二の腕のあたりまでひきさげる。
胸ぐりの大きく開いた肌着ががめくられ、シリアナの左胸が、マリウスの前にあらわになる。
「っやぁ」
左手首はマリウスの右手によって、しっかりと敷布の上に押さえつけられている。
シリアナは自由になる右手で、胸元を隠した。
「嫌がらないで」
マリウスは、唇をシリアナの右耳の裏に寄せてささやく。
マリウスの熱い吐息が耳元の敏感な箇所にかかる。シリアナは思わず身震いした。
マリウスの右掌が、シリアナの左腕ををさすりながら這い上がってくる。
肩の辺りで一旦動きをとめると、胸元をおさえるシリアナの左手の甲に自分の手を重ね、シリアナの手を寝台の上にどかす。
そしてそのまま左の乳房を下からすくいあげ、先端をくわえこんだ。
マリウスの大きな右手が、シリアナの乳房をもみあげる。
小さく尖った乳房の先端をマリウスは甘噛みし、時にざらざらとした舌でこねくり回し、吸い上げる。
「っあ、いやっ」
シリアナは首を振って抵抗した。
マリウスはそれを無視して、膝頭で伸ばされたシリアナの両脚を割り、体をおしいれた。
左手がのぼってきて、シリアナの腰のくびれた部分をなでる。
マリウスの左手は肌着の中で正面に周り、脚の付け根側からシリアナの下穿きの中に入ってくる。
下腹部のシリアナの薄い茂みをなぞり、指先で股の間をなでた。
「っあ」
これから何をされるのか知っている。
シリン高原で過ごした日日、秋から冬にかけては羊が、春になれば馬が、性の営みをくりかえすのを見てきた。
だがそれが自分の身に降りかかると思うと怖い。シリアナは全身に力を入れ、身を固くする。
それに気づいたマリウスが乳房からを顔を離し、シリアナのことを見上げて言う。
「大丈夫。貴女に合わせて、急ぎはしませんから」
マリウスは体を引き上げ、乳房から手を離し、右手をシリアナの左頬にそえる。
幼い子どもをなだめるように、シリアナの額に、そして右頬に 口づけを落とした。
その間もマリウスの左手は、シリアナの股の間をなぞるように優しく往き来する。
「あっ、ゃぁ」
花唇の頂、その一点に触れられた時、シリアナの体を強い快楽が走り抜けた。
シリアナは声を上げ、背を反らせ、つま先までぴんと体をのばす。
シリアナの耳たぶを甘噛みし、マリウスが密かに笑った。
その快感は一瞬だった。
わざとなのか、マリウスはもう一度そこに触れることはしない。マリウスが花唇の縁をなぞるたび、もどかしい、うずくような快感が、シリアナの下腹部と腰のあたりに溜まっていく。
「あっ、やあっ、お願い」
弱弱しい刺激は、徐徐にシリアナの体の中にたまり、シリアナの体の中を一杯にする。
この身うちせきとめられた快楽を解放して欲しい。
シリアナは敷布を両手でしっかりと握り、首を左右に降って、マリウスに懇願する。
「まだ、もう少し待って」
言ってマリウスは、シリアナの左耳たぶを甘噛みし、耳の裏側をなめる。
卑猥な、湿った音が、シリアナの耳のすぐ側でする。
マリウスは、空いている手でシリアナの左の乳房を下から包み込む。親指と人差し指で、つんと尖った先端をつまんだ。
掌で乳房全体をやわやわともみしだき、先端をひねったり、転がしたり、つぶしたり、シリアナの乳房に刺激をあたえる。
「はあっ、っぁ、ゃあっ」
言葉にならない喘ぎ声が、シリアナの口からもれる。
マリウスはシリアナの耳たぶの内側をなめると、さらに奥に、舌を差し込んだ。
「ひゃっ」
シリアナの耳を犯す、濡れた感覚。シリアナの肌が総毛立つ。
マリウスの舌は、まるでそれだけが意志を持った生き物かのように、シリアナの耳の中を縦に、横に、自由に動き回る。
「あぁっっ」
シリアナは背を反らせ、叫び声を上げた。
そのすきに、マリウスの左手の人差し指は、シリアナの脚の付け根の間にある花唇に割り入り込む。
「あっ」
狭隘の入り口をなでられ、シリアナの喉から思わず声が出る。
マリウスはシリアナの耳から舌を引き抜き、シリアナの耳元で笑った。
「こんなに濡れて」
マリウスの人差し指は、シリアナの狭隘を押し開くことはせず、花唇の間をいったりきたりする。
「貴女の両側の襞が、ふっくらと膨れている。貴女の婚約者は、貴女のここに触ったのですか?」
「いいえ」
シリアナは首を左右に振る。
レザイルと別れた時、シリアナはまだ十三だ。初潮を迎えていれば、レザイルの妻になっていたかもしれない。だが、あの頃、シリアナはまだ、幼いままだった。
「惜しい男だ。貴女を自分のものにできずに死ぬなんて。婚約者が敵国の将のものになるなんて、今頃、貴女の婚約者はあの世で悔しがっているでしょうね」
「……そんなこと」
レザイルの魂はきっと、シーリーン女神の懐に抱かれ、現世での傷を癒すために静かに眠っているはずだ。
その微睡みの中で、現世の記憶はすべて魂の深い淵に沈み忘却され、まっさらになった魂は、再びこの世に誕生する。
過去にとらわれているのは、シーリーン女神の下にいるレザイルではなくシリアナだ。
マリウスはシリアナの異母兄を殺した。シリアナが異母兄に渡したオオカミの牙の首飾りのせいで、マリウスは、自分が殺したのはシリアナの婚約者だと思い込んでいる。
今ここで、マリウスに乱暴に抱かれれば、三年前のあの晩、一人生き残ったというシリアナの罪悪感は薄れるかもしれない。マリウスが嫉妬にとらわれ、シリアナのことを抱くというのならそれでいい。だが、シリアナの罪悪感を薄れされるために、マリウスを利用するのは、卑怯だと思う。
シリアナは右手をのばし、マリウスの頭を抱きしめてささやく。
「違うの。あなたが殺したのは、わたしの異母兄です」
マリウスの動きがとまる。マリウスは左手をシリアナの下穿きの中から引き抜くと、顔を上げて、シリアナの頭の脇に両手をついた。
「どういうことです?」
「あの首飾りは、異母兄に渡したものです」
シリアナは二の腕までずりさがってしまった肩ひもを元に戻し、肌着の中に胸を隠しながら応える。
「では、私は貴女の兄上を?」
「ええ。わたしの父は、第五十三代ダナーン聖公国国王エルネスト陛下の弟でした」
「では、貴女はバレ王家の?」
「いいえ」
シリアナは首を振る。
「ダナーン族の純血主義はご存知でしょう。わたしの父は、シラールの民に恋をしました。それはダナーンでは許されることではなかった。父は、ダナーンでの地位も王族として名誉もすべて捨て、わたしの母と生きるため、シラールの民となりました。
わたしはバズド族の一員として、シリン高原で生まれ育ちました。自らがシラールの民であることを恥ずかしく思ったことはありません。ですが三年前、わたしの部族は他部族に襲われ滅びました。その時わたしは、父の生家であるバレ王家を頼って逃げ延びました。その時に初めて出会った兄妹です。
屋敷に部屋を与え、衣食住を保障し、異母兄はわたしによくはしてくれましたけど、蛮族の血の交じったわたしを、妹と思ったことは一度もなかったでしょう。事実わたしは、かの国で、王家の一員とした遇されたことは一度もありません。異母兄は父に対する義務から、わたしの面倒をみていました。
かの国でのわたしの正式な名は、シリアナ・シリンです。バレ王家の名を名乗ることは許されていませんでした。
それに婚約者も、わたしがシリン高原でバズド族の一員として暮らしていた時に、親が決めたものです。
彼のことは、実の兄のように慕っていました。でも、あの頃は幼くて、恋と友情の区別もつかなかった。
だからあなたが、わたしに対して気に病むことは何もないんです。きれいな髪ですね」
言ってシリアナは、マリウスの耳の横に流れる金髪をすく。
シリアナの指の間からこぼれ落ちるマリウスの金髪が、窓から差し込む光を反射して、きらきらと輝いた。
「それを言うなら貴女の髪の方が美しい。まるで、夜の闇を閉じ込めたかのかのように深い色をしている」
言ってマリウスは、枕の上に流れるシリアナの癖のない黒髪を一房とって口づけた。
「私は、貴女の兄上を貴女の婚約者だと思い込んでいた。純血主義の強いダナーンにおいても、シラールの民である貴女と婚約するほど、貴女を愛していたのだと思っていました」
「まさか」
シリアナは喉の奥で笑った。
「異母兄はどこまでもバレ王家の人間でした。一族の純血を尊び、ダナーン女神への信仰に生きた人でした。そんな異母兄です。ダナーン族の女性以外を愛することはなかったでしょう。でもわたしは、いつも異母兄がうらやましかった」
「どうして?」
「異母兄はいつも、自分が信じるものを疑わず、それに対して真っすぐでした。時にそれが、異母兄を高慢にすることもありました。でもすべて、わたしがバズド族が滅びたあの日に失ったものでした。
それより、部族に関係なく、シリン高原に住むすべての人人に共通して伝わる歌があるんです。わたしも好きだった歌です」
「貴女の好きな歌なら聴いてみたい。歌ってもらえませんか」
――悲しみも喜びもすべては風に流そう
――死者の魂は女神に委ね
――今を言祝ごう
――それが我らのつとめ
――我らが使命
――今を喜び
――今を歌え
――幸いの風は常に我らともにあらん
シリアナは節をつけて歌を歌う。
マリウスは目を閉じてじっと聴いていたが、歌が終わると目を開けて言う。
「兵たちの中にいるシラールの民が歌っているのを聞いたことがあります。きれいだ。だが、物悲しくなる旋律ですね」
「ええ。ですが、シリン高原に住む人人は、この歌を歌って日日を過ごします。
シリン高原がどんなに厳しい場所がごぞんじですか?」
「書物では読んだことがあります。一年中、山から吹き下ろす冷たく乾いた風が吹き、土地は痩せ、乾いた土地に茂るのは、背の低い牧草ばかり。だがそれも、夏になれば、乾燥からほとんどの植物は枯れ、冬になれば大地は雪に覆われてしまうのだと」
「ええ。ですから部族同士の小競り合いもしょっちゅうです。牧草のなくなる季節は特に。外からものを手に入れるにも金が必要です。どうやって金を手に入れるかご存知ですか?」
「いいえ」
マリウスが首を振る。
「他の部族を襲うんです。襲って羊を手に入れ、それを売る。もしくは、女子どもを攫って、奴隷として売りさばく。そうやって金を手に入れ、外のものを買い、厳しい季節を耐えしのぎます。だから、失ったものを悲しんでいては前に進めない。人人はこの歌を歌って、自分たちの心を慰めながら生きていくんです。
でもわたしは、ずっと後悔していました。三年前のあの日、一人生き延びてしまったことを。
それからは、二度と、風の声を聞けることはないと思っていました。でも、貴方と出会って変わった。貴方と出会ってようやく、わたしは再び風の声を聞くことができたんです」
比喩ではない。シリアナは風の巫女だ。
風の精の声を聞き、大地の血潮を感じ、草木とともに歌を歌い、星を見て、過去を、現在を、未来を占う。
三年前に自らの意志で力を封じ、シリアナはシーリーン女神から心を閉ざした。それを再び開くきっかけとなったのは、ダナティアを発つ三日前の晩に起きたクローディアの逃走だ。
でも、今、目の前にいる男がいなければ、マリウスがシリアナをダナーンから解放してくれなければ、シリアナは今も、シーリーン女神に心を閉ざしたままだっただろう。
「公爵様はわたしを、悲しみの中から救い出してくれました。公爵様は、シーリーン女神がわたしに与えてくださった、わたしの幸いの風です」
シリアナは手を伸ばし、マリウスの左頬に触れる。
「公爵様が望まれるのなら、どうかわたしを公爵様の妻にしてください」
「私の気持ちは知っているでしょう」
マリウスは言って、シリアナの右手をとると、その甲に口づけた。
「どうか公爵様の望むままに」
シリアナは言って、マリウスの手から右手を引き抜くと彼の後頭部に回し、彼の頭を胸に抱き寄せた。
「私は幸せ者です。貴女を自分のものにできるのだから。でも、貴女には辛いかもしれない」
「構いません。公爵様の与えてくださるものなら、わたしは歓んで受け入れます」
シリアナはマリウスの髪をなでながら、彼の頭にそっと唇を寄せた。
「もう、貴女に許しは請いません」
言ってマリウスは、顔を上げた。菫色の瞳がまっすぐにシリアナのことを見つめている。
シリアナは頭を持ち上げ、彼に口づけた。
彼の片手が後頭部に回る。
どちらからともなく、二三度軽く口づけを交わす。
マリウスは唇でシリアナの下唇を軽くはさんだり舌先で軽く触れることを繰り返し、シリアナの唇を割り入ってきた。
裏側から歯列の下を優しくくすぐられる。
シリアナはくすぐったくて顔を離そうとする。
マリウスが後ろに退くシリアナを追いかけてくる。
後頭部が枕にぶつかり、それ以上逃げられなくなる。
マリウスはシリアナの後頭部と枕の間から手を引き抜き、シリアナの顎をつかむ。
力強くシリアナの唇を吸いながら、さらに深くシリアナの口腔に舌をすすめた。
マリウスの舌がシリアナの舌をとらえようと、ゆっくりと動く。
シリアナは彼の動きに合わせ、彼の舌に自分の舌を絡めるようにそっと触った。
マリウスは男女の行為にまだ慣れないシリアナに合わせて、優しくゆっくりと舌を動かし、シリアナを愛撫する。
マリウスの右手は、シリアナの脚に這わされ、脛から腿へと肌着をはだけさせながらゆっくりと上がってくる。
彼はそのまま右手をつかって、口づけの合間にシリアナの肌着を脱がした。
マリウスが、シリアナの肌着を投げ捨てる。マリウスの前に下穿きだけをまとった姿がさらされる。
恥ずかしくて、シリアナはマリウスから顔をそむける。
右腕をつかって胸の双丘を隠そうとしたが、マリウスはその手首をつかんで、枕の下に押えつけた。
「隠さないで。貴女の全てを知りたい」
言ってマリウスは、シリアナの胸の左右の頂を交互に軽くついばむ。
「やっ」
湿った感触に思わず声が漏れる。シリアナは慌てて左手で口をふさいだ。
「可愛い女性だ」
マリウスは面白そうに笑って、シリアナの口から左手をどかし、自らの手をシリアナの頬にそえると顔を上向かせた。
「言ったでしょう。貴女の全てを知りたいと。恥ずかしがらずに、貴女のその可愛らしい声も、甘い吐息も全て私に聞かせてください。貴女が今から私の与える全てのものを歓んで受け入れてくれたのなら、今この瞬間、私はこの世で一番の果報者になれるでしょう」
「今だけで構わないのですか?」
マリウスに主導権を握られているこの状況が面白くない。シリアナは少し拗ねた風を装って、マリウスに訊ねた。
「ええ。今この瞬間、貴女が私のものなのだと感じたい。そんな一瞬を、貴女と共に過ごす日日に積み上げていきたい。愛しています。シリアナ・ドゥ・オードラン」
言葉では勝てない。素直に言葉で応えるのはいやだった。シリアナはマリウスの首に両腕を絡めると、マリウスに口づけをした。
そんなシリアナの気持ちを知ってか、マリウスが喉の奥で笑う。
「勝気な女性だ」
シリアナは頭を枕に戻すと腕をおろして、ふい、と横を向いた。
マリウスがシリアナの頬をなでて静かに笑う。
「でも、そんな貴女が愛おしい。私は貴女に夢中です」
マリウスは言って、シリアナの首筋に、鎖骨の下に、左右の乳房の間に、腹部のくぼみに、順をたどって口づけを落とした。
マリウスが、シリアナの下穿きに手をかける。
シリアナは腕をのばし、マリウスの手のとどめようとしたが、マリウスはシリアナの脚から下穿きを引き抜いてしまう。
マリウスの前に、シリアナの裸体が露わになる。
「華奢で、でもよく引きしまっていて、それにこの肌理の細かい白い肌。綺麗な体だ」
マリウスは言って、シリアナの右足を折り曲げると、外側に開いた。
シリアナの秘所が外気にさらされる。
シリアナは恥ずかしくて体をよじって逃げようとしたが、しっかりとシリアナの脇腹を押さえたマリウスの左手は、それを赦さない。
マリウスが右腿の内側に口づけた。
「やっ」
甘噛みしながらマリウスの唇が、脚の付け根の方へと移動していく。
「やめて」
マリウスの髪に手を両手を差し入れ、首を左右に振ってシリアナは懇願した。
だがマリウスは動きをとめない。
シリアナの右脚をさらに広げると、左脚の内腿を強く吸いあげ、右手を秘所滑り込ませた。
マリウスは花唇の間に指を沈みこませて、シリアナの割れ目を何度もなぞる。
「やっ」
自分でも触れたことのない場所。マリウスの視線がそこに注がれているのを感じる。終わるのなら早く終わって欲しい。羞恥となかなか奥へ進もうとしない指の動きにもどかしさが募る。
行為をすすめて欲しいのかやめて欲しいのかわからなくなって、マリウスの手首をつかむ。
「お願い。早く」
眼をつむり、恥ずかしさを堪えて頼んだ。
「私は今すぐにでも貴女と繋がりたいが、貴女は初めてだ。慣らしておかないと、辛い思いをするのは貴女です。でも、どうしてもというのなら、貴女の希望に従いましょう」
マリウスが悪戯っぽく笑った。
今、この場の手綱を握っているのはマリウスだ。シリアナの自由になるものは何一つない。だがそれを、心地よいと思っている自分がいた。
マリウス肉厚な手がシリアナの左の脇腹をなでる。
くすぐったくて、シリアナはきゃっ、と悲鳴を上げる。
シリアナの緊張が緩んだすきに、マリウスがシリアナの秘所に口づけた。
突然のことに、シリアナは息を呑んで目を開けた。
「……公爵様、――そんな場所……」
シリアナはマリウスの頭を両手でつかんで引きはがそうとする。それとマリウスが、シリアナの一番敏感な場所を口に含んだのは同時だった。
「――っやあぁぁっ――」
快楽が、シリアナの背筋を通って、頭の天辺まで走り抜けた。
マリウスの頭を強く掴んでシリアナは体を弓なりに反らし、甲高い悲鳴を上げた。
「……お願い、やめてください」
立てていた左膝から力が抜ける。
シリアナは寝台の上にだらしなく脚を放りだし、あえぎ声の下からマリウスに頼んだ。
しかしマリウスはやめようとしない。
脇腹を押さえていたはずの左手が、シリアナの下生えをなで、さらへ下へとさがる。
二本の指で、花唇の上部を割り開き、奥に隠れていた花芯をさらけだし、軽く唇に咥えたり、舌で愛撫したりする。
敏感な花芯に与えられる温かく湿った感触が、シリアナの快楽を呼び覚ます。マリウスがその場所に触れる度、シリアナは体をのけぞらせ、あえぎ声を上げた。
「早くして欲しいと言ったのは貴女でしょう」
花芯を愛撫する合間に、マリウスがささやいた。
マリウスの唾液にぬれた花唇は敏感になっている。花芯にかかるマリウスの吐息に、シリアナの背筋が粟立った。
花唇の下の方をなぞっていたマリウスの右手が、シリアナの左腿の内側にそえられ、大きく脚を開かさられる。
「貴女の貞操を守る襞がふっくらとふくらんで、薄紅色に染まっている。気持ちよかったですか」
シリアナの秘所を見て、マリウスが言う。
恥ずかしい。だからといって、男の前にさらされた秘所を自分の掌で隠すのは、この行為の卑猥さを自ら肯定しているような気がしてできない。
シリアナは右腕を両目の上にのせ、左手でぎゅっと敷布を握り、首を左右に振った。
「素直になってしまえば楽なのに」
マリウスが面白そうに笑い、充血したシリアナの花唇を指で軽くはじいた。
「――ひゃっ」
痛みとむずがゆさ、そして背骨を伝って頭頂部まで駆け抜けていった快感に、シリアナは両目の上から腕をどかし、思わず声を上げた。
マリウスがシリアナ開いた脚の間に座っている。彼は愉快そうに笑っていた。
「どうしてあんなこと」
シリアナはマリウスの行為に抗議する。
「初めての貴女に恥ずかしがるなと言うのは無理でしょうが、私は貴女に少しでも悦びを感じて欲しいと思っています。これだけは忘れないでください」
シリアナの頭の両脇に手をつくとマリウスは、シリアナの瞳を見つめて言い、そっと口づけた。
マリウスの体温がゆっくりと離れていく。シリアナは口づけの時に閉じた目を開けた。
「公爵様?」
シリアナの呼びかけに、シャツを脱ぎながらマリウスが微笑んだ。
マリウスは脱いだシャツをその場に置く。
鍛えられ、厚く盛り上がった胸。見事に腹筋が割れ、陰影のはっきりとした腹。剣を振るうための筋肉のついた太くたくましい腕。マリウスの上半身は、戦士としてよく訓練されていることのわかる堂堂とした体つきをしていた。
これから男とすることを考えると恥ずかしい。シリアナは顔をそむけた。
マリウスが喉の奥で秘かに笑う。シリアナの隣に体を横向きに横たえ、片肘を寝台の上につき、握った拳で頭を支える。
「少し慣らしておかないと。辛いのは貴女です」
マリウスは片手でシリアナの脚の付け根を割り、指先で花唇をそっとなぞる。
「――やっ……」
襞をかき分け、マリウスの指先が秘所に侵入してくる。
その場所に、ちりちりと引き攣れるような、かすかな痛みを感じる。
マリウスはそれ以上指を奥に進めることはせず、胎で円を描くように、狭隘の縁にそってゆっくりと指を動かした。
シリアナ自身、自分の身体の中にそんな場所があるなんて知らなかった。まだ何者も受け入れたことのないそこは、きつく狭まっている。無理矢理押し広げられる違和感。敷布を両手でしっかりと握り、マリウスの手首を太ももの間にはさんで、下肢をきゅっと締めつけた。
「大丈夫。力を抜いて」
マリウスの言葉にシリアナは、吐き出す息とともに下肢に込めた力を抜いてみる。その時機を見計らって、マリウスは一気に指を奥に進めた。
「あっ、いやっ……」
我慢できないほど痛いわけではない。ただ、初めて存在を知ったその場所で感じる、男の節ばった太い指に恐怖を覚える。
シリアナは首を左右に振り、身体を横にすると男の背に片手を回して、その逞しい胸に顔を押しつけた。
マリウスが静かに笑う。マリウスの胸に押しつけた顔の部分から、その振動を感じた。
「お願い、やめ……」
だがその言葉は最後まで言えない。
マリウスが内壁を軽くひっかくように、指先を胎で曲げたからだ。
「あっ、やぁっ」
痛いと言うのとも違う。初めて受け入れた異物を拒否するかのように、そこはマリウスの指をきゅっと締めつける。
膣内をぎちぎちと満たす圧迫感に、シリアナは腰を退いて首を振る。
「広げた方が楽でしょう」
マリウスは言い、自らの体を乗り上げながら、シリアナの体を仰向けに倒した。
膝頭でシリアナの脚を割り、体を押し入れる。
シリアナの膝の横に手を当てると、大きく開かせ、膝を曲げて持ち上げる。
自分でも、膣内がわずかに広がったのがわかった。
円を描くように、マリウスが大きく指を動かした。
ごりりと内壁を削られるような、鈍い痛みを身体の奥で感じた。
「やぁっ」
シリアナは枕の上で首を振ると、片手でマリウスの肩を押した。
「痛かったですか?」
マリウスが心配そうにシリアナのことを見つめていた。シリアナはこくりと頷く。
「気が急いでしまいました。もうしわけありません」
マリウスは幼い子をなだめるように、シリアナの左のこめかみに口づけを落とした。
頬に、首筋に、胸の二つの頂き、そして脇腹、膝を深く折り曲げさせられた左の太ももの内側と、順をたどって口づけは下におりてくる。そしてマリウスは、一番敏感な花芯をそれを包み込む襞ごと唇ではさんだ。
「やあぁぁっ」
花芯をつぶされ、じれったいような痛みを感じる。シリアナは善がり声とも悲鳴ともつかない声をあげた。
自分でも初めて聞いたその声をに驚き、シリアナは手の甲で口をふさいだ。
シリアナの反応に気をよくしたのか、花芯から唇を離し、マリウスが低い声で笑う。
マリウスの吐息が、マリウスの唾液に濡れて一段と感じやすくなったその場所にかかる。
くすぐったいような、こそばゆいような感覚が背筋を駆け上がる。シリアナはぶるりと体を震わせた。
「ここが一番気持ちいいようですね」
マリウスは言い、花芯を隠すように存在する襞を舌でそっとめくると、舌で執拗に花芯を愛撫する。
「あっ、やぁっ」
ざらりとした舌の表面が花芯をなでる度、喉の奥からはしたない声がせり上がってくる。
その出口を手の甲でふさいでいては呼吸をするのも苦しくて、シリアナは口許に載せていた手を下ろした。
与えられ快楽が苦しくて、シリアナが腰を退いて逃げようとすれば、胎に入ったマリウスの指が、追いかけるように奥へと侵入してくる。
肩口が枕に乗り上げる。寝台の飾り板に頭がぶつかる。シリアナは体を横にひねって逃げようとしようとしたが、マリウスに脇腹をつかまれはばまれる。
片脚を男の肩にかけたみっともない格好。
シリアナの両脚の間で、舌と唇をたくみにつかって花芯を愛撫する、マリウスの上半身が忙しなく上下に動いている。
男の動きに合わせ、男の肩にかけたシリアナのつま先がこぎざみに揺れている。
恥ずかしい。何も見たくなくてシリアナは目をつむる。と逆に、マリウスがシリアナの花芯を愛撫するぴちゃぴちゃと卑猥な水音と男の荒い息遣いが、シリアナの耳朶に響く。
「っはぁ」
背筋から頭頂部までゆっくりと昇ってくる快感をやり過ごすため、シリアナは小さく吐息を漏らす。
何か物足りない。うずくような快楽が、臀部と腰の境目、そして下腹部に溜まってくる。
やめて欲しいのか、続けて欲しいのかわからない。シリアナは左手をマリウスの頭に伸ばし、髪の中に手をさしこんだ。
花芯への舌での愛撫はやめず、マリウスが膣内に二本目の指を遠慮なくさしこんだ。
「やあぁぁぁっ」
内壁をとろりと愛液が伝い落ちる。胎から分泌された潤滑油は、シリアナの脚の付け根までしとどに濡らしていた。
そのおかげで痛みこそ和らいだものの、質量を増やされればやはり辛い。
内壁がマリウスの指をぎちぎちと締めつける。
それに逆らうように、マリウスが胎で二本の指をゆっくりと開く。
無理矢理押し開かれ、ぎしぎしと軋むような痛みを身体の奥深くで感じる。
「いやぁっ」
シリアナは喉をのけぞらせて叫んだ。
マリウスが痛みをなだめるように、シリアナの花芯を上下の唇でそっとはさみ、律動的に力を加えたり緩めたりする。その合間に、花芯の先端をちろちろと舌先でつつかれる。
「っはぁ、ゃぁっ」
花芯の頂きからじんじんとしびれるような感覚がわき起こり、全身に広がっていく。
シリアナはマリウスの頭にそえた両手のひらに力を入れ、首を左右に振った。
「はぁ、ぁあっ」
花芯から与えられる快楽だけでは物足りない。シリアナの胎の内壁がきゅっと狭まり、さらなる刺激をねだるように、マリウスの指をしめつける。
「ぁ、ぃやあっ」
自分の身体なのに、思うようにならない。そこだけが別の生き物のように、快楽を求めて蠢き出す。
手首の部分をゆっくりと回して、マリウスが広げた指を内壁になすりつけるようにする。
「あぁ、はあっ」
胎をえぐられるような痛み。シリアナは大きく口から息を吐いて、それをまぎらわす。
マリウスが花芯を唇ではみながら、時折舌で花芯の脇にやさしく触れる。
「ぁああ、やあぁ」
マリウスの濡れた舌が、花芯の脇の一箇所に触れるたび、シリアナの身体がびくりと痙攣する。
シリアナは枕の上で首を左右に振り、マリウスをそこから引きはがしたくて、両手でつかんだ彼の頭を軽く上に引っ張る。
マリウスはそれには応じず、花芯のシリアナが一番反応する場所を舌先で執拗に責め立てはじめた。
「あぁ、はぁあっ」
花唇の一番敏感な場所から、頭頂部へと走りぬけていく快感。とめどなく押し寄せるその快感を耐えるため、シリアナは短く息を吐き出す。
シリアナは、マリウスから与えられる快感に必死に堪える。それとは反対に、身体はマリウスから与えられるモノに素直に反応し、胸の鼓動は徐徐に増していき、シリアナの呼吸は忙しくなる。
「あっ、やぁっ」
一点に与えられる刺激。そこからひろがる快感に身体中が支配される。
身体の奥がきゅっと狭まる。足の甲が限界までそりかえり、つま先がぴんと伸びる。
内壁からの圧力により、開いていたマリウスの指先が閉じる。
それに反抗するように、マリウスが指先をぐっと奥につきいれる。
身体の一番奥、こつり、と行き止まりに当たったような痛み。
それなのにマリウスは、さらに奥を求めて、指を進めようとする。
「ぃやあぁぁ」
身体が引き裂かれる、そんな恐怖を覚え、シリアナは身体全体を反らし、悲鳴を上げた。
しかしマリウスは容赦しない。
指を少し引き抜くと、また奥を求めて指先をつきいれる。
「いやぁああ」
マリウスが狭隘の一番奥まった場所を指先でつつくたび、シリアナは悲鳴を上げた。
その間もマリウスは、花芯の一番敏感な場所を舌先で刺激することをやめない。
高まる快楽。シリアナの胎が、マリウスの指をさらに締め付け上げる。
マリウスは、シリアナの胎で指を上下に往復させるのをやめる。
代わりに二本の指の先をくいと少し曲げ、シリアナの一番感じる一箇所を指の腹でひっかき、小刻みに刺激する。
「あっ、はぁっ、やぁっ」
シリアナの口から嬌声が漏れる。
その間もマリウスは、シリアナの花芯の脇の部分を丹念に舌先で愛撫していた。
全身を満たしていく快楽。マリウスの舌先が花芯のその部分に触れる度、シリアナは喉の奥で息を呑みこむ。
膣が無意識にきゅっとしまる。胎の一番感じる場所に当たる、マリウスの指先を強く意識してしまう。
マリウスの舌先が、一瞬シリアナの花芯から離れた。
快楽が弱まる。シリアナの意志を無視して、全身を支配しようとする快楽から逃げようと、シリアナは吐く息とともに身体から力を抜く。
だが再びマリウスの舌先がシリアナの花芯に触れると、その努力も虚しく、快楽は背骨伝ってを駆け上がり、シリアナの全てを奪い去る。
「はぁっ、やぁっ」
シリアナは両手でマリウスの頭を掴んだまま、首を振る。
そんなシリアナの様子を面白がるように、マリウスが笑った。
「恥ずかしがらないで。私の愛撫に応える貴女はとても美しい」
マリウスはシリアナ秘所から顔を上げる。そこに差し入れていた二本の指をゆっくりと引き抜く。
内壁が擦れる感覚に、シリアナは思わず息を飲んだ。
マリウスは体を退きながら、自らの肩にかかったシリアナの脚の足首を右手でとった。
シリアナの両手が敷布の上に落ちる。
マリウスは寝台の上に座り、左手をシリアナの右足の裏にそえると、その足の甲にそっと口づけた。
「――公爵様、そんな場所に……」
マリウスが口づけをやめ、顔を上げる。足の甲からマリウスの体温が離れていく。
マリウスは自分の体の横にシリアナの足を置くと、シリアナを見て微笑んだ。
「私の生涯を愛とともに貴方の上に捧げます」
「わたしも、公爵様に相応しい妻になるとお約束いたします」
シリアナの言葉にマリウスは笑い、両手をシリアナの頭の脇につき、シリアナに覆いかぶさるような体勢をとると、シリアナのことをまっすぐに見つめてきた。
「私は、オードラン公爵家の夫人として貴女を望んだわけではありません。一人の男として、私は貴女が欲しかった。シリアナ、どうか私の名に愛を誓ってもらえませんか」
「――マリウス様」
シリアナは右手をマリウスの頬にのばし、言葉を続ける。
「いついかなる時も、たとえ逆風にさらされた時にも、シーリーン女神が二人の道を分かたぬ限り、貴方と共に人生を歩んでいくと誓います」
シラールの民が婚姻の儀式の際に伴侶となる相手に告げる言葉。それを口にし、シリアナは両腕をマリウスの広い肩に絡めると上体を持ち上げ、マリウスに口づけた。
目をつむり、彼の肩に這わせた掌で、マリウスの筋肉に覆われたたくましい背中を感じる。
マリウスは口づけをしたままリアナの体を寝台に押し戻し、上下の唇をはむような口づけを何度か繰り返した。
「私が今、どれほど幸せを感じているか分かりますか」
マリウスは上体を持ち上げ、シリアナのことを真っすぐに見つめて訊ねてきた。
シリアナは首を左右に振った。
「公爵様がなぜわたくしを望んでくださったのか、正直に言えば分かりません。シラールの民と言えば、ダナーンでは蔑まれることが常でしたから」
シリアナは顔を横に向け、マリウスから視線をはずした。
マリウスは静かに笑い、シリアナの頬に手を当てると、自分の方に向き直らせた。
「ダナーンで暮らしていたと言うのなら、貴女の恐れも当然だと思います。今すぐに私の心を信じて下さいとは言いません。ですが少しずつでも、私は貴女と心を通わせてゆきたい。それより、そろそろよいですか、シリアナ」
言ってマリウスは、まだ履いたままになっている下服越しに、自身の昂ぶりをシリアナの茂みに押しつけてきた。
固く盛り上がったマリウスの分身は何よりも雄弁に、シリアナの体を欲していると主張している。さっき散散マリウスに恥ずかしい場所を愛撫されたばかりだと言うのに、これから先マリウスにされることを考えて、カッとシリアナの頬に血が上る。先ほどマリウスから与えられた痛みと悦び。それにはまだ先がある。マリウスを正面から見つめているのは恥ずかしくて、シリアナは目を伏せた。
「怖い、ですか」
マリウスの問いに、シリアナは小さく頷いた。
唯一の財産とも言える家畜をいかに殖やすかは、シラールの民にとって重要な問題だった。毎年秋も深まってくると、雌羊たちを囲いの中に一箇所に集め、四十から六十頭程をまとめて、首の辺りに縄を結んで横に一列につなぐ。雌羊の準備が終わると、放牧させていた種雄を捕まえて連れてくる。囲いの中に連れてこられると雄羊は、一頭終わればまた次の一頭と、雌羊の上で休みなく腰を振り続ける。雌羊は足元にある草をはんだり、のんきに鳴いたりして、いつもと変わらぬ様子で自分の番が来るのを待っていた。ただ、生命を増やすためだけの行為。それは少しも快いものには見えなかった。
だが、マリウスから与えられたものは違った。生命を育むためだけの行為ではない。シリアナを求めるマリウスの肉欲の裏側には、常にシリアナのことを思いやる優しさがあった。
「ずっと、子を生すためだけ、肉欲を満たすためだけの行為だと思っていました」
シリアナの応えに、マリウスが笑った。
「確かに、子もできれば、肉欲も満たせるでしょう。だがそれ以上に、私は貴女を大切にしたいと思っている。私は貴女に愛を与えたい」
「公爵様の望むままに」
「貴女にはマリウスと呼んで欲しい」
「はい。マリウス様」
シリアナは男の名を小さく呼んで、頷いた。
「愛しています」
男は言い、シリアナの頤をつかむと、正面を向かせて、シリアナに口づけてくる。
舌先で唇を無理矢理押し割り、歯列をなぞり、口腔に深く侵入してくる。シリアナの舌を絡めとり、強く吸い上げる。
「うっぅ、ぅうん」
口腔に溜まった唾液の飲み下し、シリアナは鼻から息を吐く。
角度を変え、舌をしきりにうごめかし、男はシリアナを求めた。
口づけの合間にマリウスは、下服と肌着をまとめて脱いで、寝台の外に放ってしまう。
二人の間を遮るものは何もない。
硬く立ち上がった欲望を、マリウスがシリアナの腿のつけねの間にそっと当てた。
先ほどのマリウスの愛撫で、そこはすっかり濡れていた。
秘所の入り口を、マリウスが陰茎の先端で何度かこする。
覚悟してきたはずなのに。先ほどマリウスがそこに指を突き入れたときの痛みが脳裏に蘇り、恐怖を感じる。口づけをされたまま、シリアナは首を左右に振った。
マリウスは口づけをやめ、両腕で体を持ち上げ、上からシリアナを見下ろしてくる。
無理だと伝えたくて、シリアナは首を左右に振った。
マリウスは静かに笑い、シリアナの左の頬に手を当てた。
「大丈夫。無理はしませんから」
「――ですが……」
シリアナは下腹部の辺りをちらりと見る。天を仰いで張りつめたマリウス自身は太くたくましく、とても受け入れられるとは思えなかった。
「大切にします」
マリウスは言い、なだめるように、シリアナの額に口づけた。
左右のこめかみ、喉元、首筋、鎖骨、胸の二つの頂と、マリウスの口づけが、順を追って下におりてくる。
触れるだけの口づけは、男の鼻腔から吐き出される息とともに、シリアナの肌を弱く刺激した。
目を固くつむり、首をのけぞらせる。敷布をぎゅっと握り、シリアナはくすぐったさを堪えた。
マリウスの両手が膝頭に触った。強い力で握られる。
シリアナは目を開けた。
「そろそろ良いですか?」
マリウスが苦笑する。マリウスは自身の股間の間にちらりとに目をやった。
赤黒い色をした、大きく立ちあがった彼自身がそこにいた。周囲を這う太い血管が、皮膚を持ち上げ浮き上がっている。
無理だと思って、シリアナは首を左右に振る。
「もう、待ちません」
マリウスは宣言し、シリアナの膝を曲げ大きく開かせる。その間に自身の体を間に押し入れた。
広げた脚の間に男を迎え入れたあられもない姿。首をゆるく振って反抗する。
「大丈夫」
マリウスは言い、シリアナのこめかみに口づけた。
そのまま頬に唇を寄せ、音を立てて吸うと、小鳥がついばむような口づけをシリアナの唇に幾度ととなく繰り返す。
「つらかったら、私の背にしっかりとつかまて下さい」
マリウスは、寝台の上に投げ出されたままになっていたシリアナの両腕を取ると、自分の体に抱きつかせた。
「――っぅ!?」
花唇のすぐ奥。狭隘の入り口に生まれて初めて感じる圧迫感。押し入ろうとするマリウスの雄芯が、体を引き裂くかのような痛みを与える。
マリウスの広い背にすがり、シリアナは息を呑んだ。
狭隘の入り口がすぼまる。それでもマリウスは腰を進め、シリアナの躯を強引に割り開こうとする。
体を真っ二つに切り裂かれる。そんな恐怖を感じた。
シリアナは喉を反らせ、わき上がる悲鳴を唇を強く噛んで抑える。
マリウスはシリアナの腰をつかんだ手で、退きがちになるシリアナの体をしっかりと押さえ込む。
「――くっ」
マリウスが呻く。
「力を抜いてください。このままでは挿いらない」
このまま奥に、彼の欲望を迎え入れることが怖い。
シリアナは弱く首を振って、無理だと伝える。
「仕方がない。恨まないで下さい」
マリウスは言い、シリアナの腰をつかむ手に力を入れ勢いよく引き寄せた。と同時に、シリアナの花芯に腰を打ち付ける。
「――っ!? ぁ、いやぁぁぁぁぁ――」
悲鳴とも嬌声ともつかない叫び声が、シリアナの喉からほとばしった。
マリウスはそれを無視して肉塊で狭隘を押し開き、処女地を奥へ奥へと進める。
酷くつらかったのは最初だけだったが、マリウスが肉塊を前へ進める度に、みしみしと軋むような痛みが下肢を中心に体全体に響きわたる。
シリアナはマリウスの広い背に抱きつき、爪を立てた。
「挿いった」
マリウスが動きをとめ、ほっと息をついて言った。
マリウスが片手で、しっかりと自身に抱きついていたシリアナの体を引きはがす。
いつの間にか浮いていた背を、寝台の上に落ち着けられた。
マリウスがシリアナの顔の脇に両手をついて、上体を持ち上げる。
そのわずかな動きが下肢から伝わり、胎にこすれるような痛みを感じる。シリアナはかすかに顔をしかめた。
「大丈夫ですか?」
お互いのわずかな動きでも下肢に伝わり、胎内に他者の存在を強く感じる。
それを感じたくなくて、シリアナは小さく頷いた。
「マリウス、さまは?」
「幸せです。愛する女性と一つになれたのですから」
マリウスが目を細め、目尻を下げて笑う。
真っすぐに向けられる愛情がこそばゆい。
シリアナは首を横にひねり、顔をそらした。
「貴女に、愛を向けて欲しいと望むのは早計だと分かっています。こうして受け入れてもらえるだけで十分なのだと。でもいつか、貴女も私を愛してくれますか?」
寝台の上に広がった、シリアナの髪を優しくなでながらマリウスが言う。
その真摯な声音に、シリアナはマリウスのことを正面から見つめた。
男は少し寂しそうに笑っていた。
シリアナは、マリウスの左頬に手を伸ばす。
「人の心は気ままに吹く風のようなものです。自分自身でさえ自由にできない。未来のことは約束できません。
でも、愛は育むことができるのだと両親が言っていました。お互いの心がけ次第で深まっていくものだとも。
今の私に、両親のその言葉の意味は理解かりません。でも、貴方とならともに、生きていきたいと思っています。貴方とともに、両親の言っていた言葉の意味を実感してみたい。今日から先、わたしの魂がシーリーン女神の御下に還るまで、貴方の隣を歩むことを赦していただけますか」
「もちろんです」
言ってマリウスが、シリアナの体を抱きしめた。
マリウスの雄芯がすれて痛みを感じる。
シリアナの口から、うっ、とうめき声が漏れた。
マリウスがシリアナの体を放す。
「大丈夫ですか?」
シリアナは頷く。
「なら、このまま続けても?」
素直に応えるのは恥ずかしい。シリアナは少し目を伏せ頷いた。
「なるべく早く終わらせます。つらければ私につかまっていて下さい」
マリウスは言って、シリアナの腕を取ると、自らの背にまわさせた。
シリアナの様子をうかがうように、マリウスはゆっくりと腰を前後に一二回動かした。
「――ひゃっ……」
引き攣れるような痛みに、小さく悲鳴が漏れた。
筋肉の盛り上がったマリウスの肩を抱く手に、力を込める。
それを合図とばかりに、マリウスが雄芯を動かす速度を上げる。
「――ぃゃぁあ」
マリウスの肉塊が抜き差しされる度に感じる痛みに、シリアナは悲鳴を上げる。
「もう少し、我慢して」
マリウスは両手で、しっかりとシリアナの腰を抑える。
マリウスの欲望が、狭隘の一番奥にこつりと当たる度、シリアナの口から悲鳴が漏れる。
「――っはぁ……、――いやぁ……、ぁあっ……、――ぅうんっ」
マリウスはそれを無視して、腰をシリアナの下肢に打ち付ける。
痛みに耐えかね、シリアナは広げた脚でマリウスの体を挟み込む。
すると花芯の奥も締まって、余計に胎内のマリウスの存在を感じる。
「――いやぁ」
シリアナは首を左右に振った。
「あと、すこしですから」
マリウスが苦しげにつぶやく。
その声に、うっすらと瞼を持ち上げ、痛みに知らず知らずの内に閉じていた瞳をシリアナは開いた。
掌で感じる彼の素肌は汗ばんでいる。
顔の横に落ちかかった髪が、汗の流れる彼の頬に何本か張り付いていた。
マリウスの肩に載せていた手をずらして、明るい金色の髪の上から彼の頬を触った。
マリウスがはっとしたように動きをとめる。シリアナは男に向かって微笑んだ。
「貴方はわたしの幸いの風です。わたしも貴方の幸いの風になりたい。どうかわたしを貴方のものに」
「初めからそのつもりです」
マリウスからとも、シリアナからともなく口づける。
何度か互いの唇を寄せ合い、軽くはむ。
マリウスはシリアナの後頭部に手を回し、深く口づけた。
「――っぅうん」
シリアナは喉の奥で息を飲み込む。
マリウスは、歯列の間をかいくぐり、舌を奥へ差し込むと同時に、再び腰の動きを開始した。
シリアナは、マリウスの頭と肩に回した手で、男の体をしっかりと抱きしめる。
マリウスの舌は、シリアナの舌を絡めとり、しっかりと吸い上げる。
マリウスの腰の動きが早くなる。肉と肉がぶつかり合う音、シリアナの下肢から溢れ出した体液が、マリウスのたくましい雄芯にかき混ぜられて発する淫靡な水音、欲を求めて体を動かす男の荒い鼻息、互いの唇が近づいてはまた離れるたびに起きる破裂音、二人の唾液が交じり合い、絡まり合う音。睦み合う男女のおこす卑猥な音が、室内を満たす。
「っぅ、うぅんっ」
下肢の痛みは弱まらない。マリウスの肉塊が、狭隘の内襞をこすり上げる度に強くなっていく。
マリウスに口づけられたままでは、声はでない。シリアナは、喉からわき上がる悲鳴を、鼻息とともに逃がす。
マリウスの雄芯の先が、シリアナの胎内の一番深い場所に当たった。
「――ぅうん!?」
その瞬間、シリアナは思わず息をのんだ。
マリウスは、シリアナの後頭部と肩を支えていた手を放す。
シリアナの腰をつかんで、自身に向かって強く引きつける。
「くぅっ……」
マリウスは苦しげに目をつむり、うめき声を上げる。
シリアナの胎でマリウスの肉塊がふくれあがり、一際熱を持つ。
マリウスは雄芯をわずかに退いて、再びシリアナの一番深い場所に打ちつけた。
「――ぁ、あぁぁっ――――」
喉を反らしたシリアナの口から悲鳴が漏れる。
マリウスの雄芯から迸った熱い飛沫が、シリアナの一番深い場所を濡らす。
「ぃ、いやぁ」
シリアナは首を振る。
マリウスはさらに深く、シリアナの腰を引きつける。
シリアナの胎のマリウスが、痙攣するように幾度か小刻みに動く。その度に、マリウスの欲望が雄芯の先から溢れ出した。
「はぁっ」
痙攣が収まって、マリウスが息を漏らす。
マリウスはそのまま、自分自身をシリアナの胎からずるりと引き抜く。
マリウスが吐き出した欲によって、最初と比べ楽にはなったが、マリウスの雄芯が内壁をこする時の引き攣れるような痛みに、シリアナは眉をしかめた。
マリウスが去ると同時に、狭隘の入り口から下肢を伝って、何かが流れ出たのがわかった。
シリアナは頭を持ち上げ、開いて投げ出されたままになった自分の脚の間を見た。
シリアナの破瓜の血と交じり合って薄紅色になったマリウスの欲望が、シリアナの股の間の茂みから溢れ出し、敷布を汚していた。
「――ぃや」
敷布の上ににはっきりと残った先ほどまでの行為の名残を見て、途端に恥ずかしくなる。
男を迎え入れるため、先ほどまで目一杯開かされていた脚は怠く動かない。
シリアナは首を回して、掛布を探す。
それに気づいたマリウスは小さく笑い、床の上に落ちていた白い薄布でできた掛布を拾うと、シリアナの体にかけた。
「体はつらくはないですか?」
マリウスの問いかけにシリアナは首を振る。
寝台の上に座ろうと、両手に力を入れ体を持ち上げようとした。
「――っう……」
下肢に感じた痛みに、シリアナはにうめき声を上げる。
シリアナが少しでも動こうとすると、下肢から腰にかけ、きりりと鋭い痛みが走る。
「しばらくじっとしていた方がいでしょう。着るのに楽なものを持ってきますから」
マリウスは言って、シリアナの額にかかる髪をかき分け、口づけた。
マリウスは床に散らばる二人の服を集めて、手早く自分の分だけ身につける。
「待っていてください。すぐに戻ってきます」
シリアナの服を持ってマリウスは言い、部屋を出て行った。
長椅子から立ち上がり、シリアナはマリウスに導かれるまま、続きの間へ向かった。
マリウスが扉を開ける。中を見て、シリアナの足がすくむ。
部屋の中央には、天蓋つきの大きな寝台が置かれていた。
先に部屋に入っていたマリウスがふり返る。
シリアナはマリウスに握られていた手を取り返し、もう片方の手で胸の前に握りこむ。うつむいて、首を左右に振った。
「怖い、ですか?」
マリウスに訊ねられ、シリアナは頷いた。
「公爵様のおかげで命を長らえたというのに、敗戦国の女が、往生際が悪いとお思いでしょう」
「いいえ」
穏やかだが力強い声に、シリアナは顔を上げた。
マリウスがシリアナとの距離を一歩つめる。マリウスの肉厚な手がそっと頬に触れ、すぐに離れていった。
「だが、私は貴女が欲しい。貴女のすべてを私は欲しい。そして望むべくなら、喜びも悲しみも苦しみも、すべてを貴方と分かち合い、貴女と共にある人生を送りたい。改めて貴女に求婚させてください」
言ってマリウスは、片膝を立てひざまずき、シリアナのことを見上げた。
「バズド=ナキ・バジス=アミ・ダナ=アミ・スレ・シーリーン・スレ・アナどうか私の妻に。これから先、貴女の側に私がよりそうことを許してください」
「……わたしは、蛮族の……シラールの民です。公爵様の妻になるのに相応しい女ではございません。それなのに、本当に、わたしでよろしいのですか」
「貴女が何者であろうと、初めて貴女と出会ったあの瞬間から、私の心は貴女の上にあります。私の気持ちを受け取ってくれるなら、どうか貴女の手を私に預けてください」
マリウスが掌を上に、シリアナの前に手を掲げた。
ためらって、その上にシリアナは自分の右手を重ねた。
マリウスは素早い動きで左手でシリアナの手首をつかみ、立ち上がる。シリアナの体を自分の方へ引き寄せ、触れるだけの口づけをした。
「――公爵様……」
シリアナの呼びかけに、顔を上げてほほ笑んだ。
「何も心配せずに、すべて私にゆだねてください。決して、貴女を傷つけるようなことはしませんから」
シリアナは頷いた。
マリウスがシリアナを横抱きにする。
足元を支えていたはずの床の感覚が突然なくなり、シリアナは驚く。マリウスの首にしがみついた。
マリウスが静かに笑う。マリウスの首筋に寄せていた額から、彼の喉元が震えたのを感じた。
シリアナを抱えたまま、マリウスは寝台まで行く。
寝台の横に片膝をつくと、シリアナの体を寝台の上に横たえた。
首にまわされたままになっているシリアナの腕を外して、マリウスが寝台から少し離れた。
首元を飾る薄布をほどき、シャツの前をくつろげる。
よく鍛え上げられた逞しい胸があらわになった。
シリアナは首を回して顔をそむける。敷布を両手でぎゅっと握った。
「貴女が怖いと思うのは当然ですが、それでも私は貴女が欲しい」
マリウスが、寝台に片足を乗りあげる。脇腹の横辺りで、寝台が沈み込んだのがわかった。
「今、私の胸が、どんなにか貴女を求めて、高鳴っているか分かりますか?」
シリアナは、マリウスのことは見ずに首を左右に振った。
「なら、触れてみてください」
きつく敷布を握ったシリアナの右手に、マリウスの大きく力強い手が重ねられる。
マリウスの武人らしい太い指が、いたわるようにシリアナの手の甲をなでる。優しいその動きに、シリアナの手から少しずつ力が抜けていく。
マリウスはシリアナの手を持ち上げると、自分の左胸にシリアナの掌を触らせた。
「感じますか? 貴女を求めて早鐘を打つ私の胸の鼓動を」
外気にさらされひんやりとした肌の下で、とくとくと鳴るマリウスの胸の鼓動を感じる。マリウスの血潮が熱く波打っている。
「どうして?」
「言ったでしょう。初めてあったあの瞬間から、私は貴女に恋したのだと」
マリウスは靴をその場に脱ぎ捨て、寝台の上に乗り、シリアナをまたいで、両手をシリアナの顔の横についた。
「愛しています」
言ってマリウスがシリアナの首筋に口づけた。
「……あっ」
首筋の薄い肌を力強く吸われる。ちりりとした痛みに、シリアナは思わず声を上げた。
顔を離すと、マリウスは両肘を寝台につきシリアナの頭を抱き込む。シリアナに正面を向かせた。
顔の左右から落ちかかった金髪が、マリウスの彫りの深い顔立ちにかかる陰影を濃くしていた。
菫色の瞳がすぐ目の前で、熱っぽくシリアナのことを見つめている。
気恥ずかしくなり、首を回して顔をそむけようとしたが、しっかりとシリアナの頭を押さえたマリウスの両手がそれを許さない。
シリアナはマリウスから視線を外し、彼の肩を掴んで自分から引きはがそうとした。
しかし、男の大きな体は、シリアナの細い腕の力では微動だにしない。
マリウスが再びシリアナの首筋に顔を寄せる。
先ほどと同じ個所を軽く吸われ、ざらついた舌先でなめられる。
「あっ」
湿った、生温かい感触に思わず声がもれた。
「いや」
シリアナは言って、マリウスの頭に手をかける。
マリウスはシリアナの抵抗など気にせず、シリアナの首筋に幾度も口づけを落とすと、シリアナの唇をふさいだ。
「うっ、ぅうん」
シリアナは目をつむり、首をそらして、喉の奥であえぎ声をあげる。
シリアナの頭を押さえていたマリウスの左手が、服の上からシリアナの体の線をなぞって、ゆっくりと下におりていく。
その間も角度を変えて、マリウスは何度もシリアナに口づけを落とした。
スカートの上から、マリウスの左手がシリアナの太ももの辺りをそっとなでる。
布越しに感じるマリウスの大きな掌の体温がじれったい。シリアナは腿の内側をこすり合わせた。
マリウスの弾力のある唇がシリアナの小さな唇を包み込み、軽くすい上げる。
上唇の端の敏感な部分を舌先でちろちろとなめられる。
くすぐったさに思わずシリアナが口を開けると、わずかに開いたその隙間から、マリウスの舌が押し入ってきた。
突然のことにシリアナは体をすくめる。マリウスはシリアナを気づかうように、奥に縮こまったシリアナの舌に自身の舌をゆっくりと絡めて、強くすい上げた。
「うっ、うぅん」
シリアナの鼻から甘い声がぬける。今までに聞いたことのない声に、自分でも驚いてシリアナは目を開ける。
マリウスは交じり合った二人の唾液を音を立てて嚥下し、シリアナの頭の横に掌をついて、体を起こす。
真っすぐに見つめてくるマリウスの視線が恥ずかしくて、シリアナは濡れた唇の上に握った右手をおくと、首を曲げて顔をそらした。
「恥ずかしがらないで。私は貴女をもっと知りたい」
マリウスはシリアナの唇の上から握った右手を外させると、シリアナの頬に手を当て、ゆっくりと顔を上向かせた。
マリウスの菫色の瞳が、優しくシリアナのことを映している。
マリウスは左掌をシリアナの髪に差し込んで、指先だけでシリアナの頭をなでた。
シリアナはマリウスの手の指を握って、その動きをやめさせる。
「公爵様の女になるのだと覚悟してきました。お願いです。奪うのなら、力のままに奪ってください」
「私は貴女を愛しています。能う限り貴女を大切にしたい」
マリウスはシリアナの手を寝台の上におく。シリアナの頬に掌をあて、シリアナの気持ちを落ち着かせるように、触れるだけの何度も口づけを繰り返した。
唇から顎、顎から喉へ。口づけは次第に下におりていく。
「あっ」
喉元に口づけられる。
急所を触れられ、本能的に恐怖を感じる。
シリアナは喉をそらせ、小さく悲鳴をあげた。
マリウスはそれに構わず口づけを続ける。
マリウスはシリアナの首筋に口づけ、シリアナの体を反転させた。
「やっ、なっ、なに」
マリウスの手が、シリアナのドレスの背中の部分をとめる釦にかかる。
シリアナは振り返った。
うつぶせになったシリアナの腰に、マリウスが馬乗りになっている。両腕は体の脇でマリウスに脚に固定され、抵抗できない。
シリアナが戸惑っている内に、マリウスは器用に、背中の釦をすべて外してしまう。
その間も、シリアナの首筋から肩にかけ、降る口づけがやむことはなかった。
「やめて」
マリウスは、シリアナのドレスを頭からひきぬき、床に放り上げる。
続いて、まだはいたままだった靴も靴下もすべてはぎ取られる。
身につけるものは、袖のない上衣とふくらはぎまでの長さのスカートを縫い合わせた肌着だけになる。
マリウスはシリアナの腰に手をあて、シリアナの体を反転させた。
シリアナは両目の上に腕をおいて首を振り、マリウスに弱弱しく抗議した。
「……やめて、ください」
バズド族が滅び、一人生き延びたあの日から、誰かに罰せられることを望んできた。
愛されたいなんて思わない。強引に、男の欲望のままにすべてを暴かれてしまえば、どんなに楽だろう。
シリアナの眦から涙が落ちる。
マリウスが、両目の上におかれていたシリアナの腕をどかす。眦からこめかみへと流れる涙を見て、マリウスが大きく息を吐く。
「婚約者のことが忘れられませんか? だとしても私は、貴女を求める心を留めることはできません。貴女に愛してもらいたいとは望みません。ただ、許されるのなら、どうか私を受け入れてください」
言ってマリウスは、シリアナの肩をそっとつかむと、左右の眦に唇を寄せ流れる涙を吸い取った。
そんなマリウスの真摯な優しさがつらい。
つむった眼から、さらに涙があふれ出す。
「泣かないでください」
マリウスの手が、シリアナの左頬に寄せられる。親指で流れる涙をぬぐわれる。
マリウスは静かにシリアナの唇に口づけた。
「っぅ、うっぅん」
シリアナの鼻から、あえぎ声がぬける。
マリウスは、軽く唇を吸うだけの口づけを小刻みに繰り返す。
このまま彼に、すべてをゆだねきってしまいたい。
シリアナは、マリウスの広い肩に両手を回した。
マリウスの肩がびくりと揺れて、動きがとまる。
口づけをやめて、マリウスがシリアナのことを見つめてくる。
「やめないで」
シリアナは、頭を持ち上げ自分からマリウスに口づけた。
はだけたマリウスのシャツの前ごろもと、シリアナの肌着がふれあって、衣擦れの音がする。
薄い肌着の布越しに、マリウスの体温を感じた。
このまま何も考えずに、マリウスのものになってしまいたい。
シリアナは、マリウスのシャツを両手で握った。
突然積極的になったシリアナに、マリウスが驚いたように息を呑む。
シリアナは頭を枕につけると、左手でマリウスの頬を触り、笑いかけた。
「何も考えずに。どうかわたしを公爵様のものにしてください」
「いいのですか? このまま進めば、貴女がどんなに嫌がってもとめられなくなる」
「構いません。公爵様の好きにしてください」
シリアナはマリウスの体を抱きしめ、その広い胸に顔をうずめる。
少し汗ばんで、しっとりとした肌。首をまわして耳を寄せれば、マリウスの心音が聞こえてくる。先ほど掌で感じたときよりも少し早くなっているその鼓動に、彼が緊張しているのだとわかった。
「わたしの気が変わらないうちに早く」
マリウスの体を抱く腕に力をこめ、マリウスの胸に頬を寄せたままシリアナは懇願する。
「貴女の気持ちがどこにあろうとも、私は生涯貴女を愛し続けます」
マリウスは言うと、自らの胸からシリアナの顔をひきはがすし、シリアナの頭を枕へとおしつけた。
「だから、これから何をしようと私のことを許して欲しい」
「ええ」
シリアナは頷く。マリウスが口づけてくる。マリウスは性急に舌を差し入れる。シリアナは驚いて身をすくませた。
奥で縮こまったシリアナの舌に自らの舌をからめ、マリウスが強く吸い上げる。
左の手は、シリアナの体をまさぐり、肌着の裾を持ち上げる。そのまま肌着の中へと侵入し、膝の横から太ももへ、さするように這い上がる。
武人として剣を握ることに慣れたマリウスの手の皮は厚い。そのざらざらとした感触に、シリアナの肌が粟立つ。マリウスの大きな手が、臀部の横をつつみこむ。そしてそのまま長い指をのばして、腰との境目の辺りをゆっくりとなぞる。
くすぐったいのか気持ちいいのかわかならい。シリアナは身をよじって逃げようとするが、のしかかったマリウスの下半身の重みと、シリアナの頭を抱えこんだもう片方の手がそれを許さない。
「っぅう、うぅうん」
首を振り、喉をそらし、鼻から抜ける喘ぎ声でシリアナは抗議する。しかしマリウスは、口づけをやめることなく、さらに深くする。
マリウスの唇が、顎から喉へ、鎖骨へとおりていく。
鎖骨の内側の尖った部分をマリウスは音を立ててきつく吸い上げ、顔を離した。
「っあ」
遠ざかっていく体温が名残惜しくて、シリアナは思わず声を上げる。
シリアナの頭をおさえていたマリウスの左手が、首筋をなぞって下がり、肩の上でとまる。親指を鎖骨まで延ばし、マリウスは先ほど口づけたところを優しくなでた。
「痕がついている。貴女の白い肌が鬱血して、まるで花びらがさいたようだ」
マリウスは言って、シリアナの肩をおさえると、もう一度、音を立て、今度は触れるだけの口づけをそこにした。
マリウスの右手が、シリアナの肌着の肩ひもを二の腕のあたりまでひきさげる。
胸ぐりの大きく開いた肌着ががめくられ、シリアナの左胸が、マリウスの前にあらわになる。
「っやぁ」
左手首はマリウスの右手によって、しっかりと敷布の上に押さえつけられている。
シリアナは自由になる右手で、胸元を隠した。
「嫌がらないで」
マリウスは、唇をシリアナの右耳の裏に寄せてささやく。
マリウスの熱い吐息が耳元の敏感な箇所にかかる。シリアナは思わず身震いした。
マリウスの右掌が、シリアナの左腕ををさすりながら這い上がってくる。
肩の辺りで一旦動きをとめると、胸元をおさえるシリアナの左手の甲に自分の手を重ね、シリアナの手を寝台の上にどかす。
そしてそのまま左の乳房を下からすくいあげ、先端をくわえこんだ。
マリウスの大きな右手が、シリアナの乳房をもみあげる。
小さく尖った乳房の先端をマリウスは甘噛みし、時にざらざらとした舌でこねくり回し、吸い上げる。
「っあ、いやっ」
シリアナは首を振って抵抗した。
マリウスはそれを無視して、膝頭で伸ばされたシリアナの両脚を割り、体をおしいれた。
左手がのぼってきて、シリアナの腰のくびれた部分をなでる。
マリウスの左手は肌着の中で正面に周り、脚の付け根側からシリアナの下穿きの中に入ってくる。
下腹部のシリアナの薄い茂みをなぞり、指先で股の間をなでた。
「っあ」
これから何をされるのか知っている。
シリン高原で過ごした日日、秋から冬にかけては羊が、春になれば馬が、性の営みをくりかえすのを見てきた。
だがそれが自分の身に降りかかると思うと怖い。シリアナは全身に力を入れ、身を固くする。
それに気づいたマリウスが乳房からを顔を離し、シリアナのことを見上げて言う。
「大丈夫。貴女に合わせて、急ぎはしませんから」
マリウスは体を引き上げ、乳房から手を離し、右手をシリアナの左頬にそえる。
幼い子どもをなだめるように、シリアナの額に、そして右頬に 口づけを落とした。
その間もマリウスの左手は、シリアナの股の間をなぞるように優しく往き来する。
「あっ、ゃぁ」
花唇の頂、その一点に触れられた時、シリアナの体を強い快楽が走り抜けた。
シリアナは声を上げ、背を反らせ、つま先までぴんと体をのばす。
シリアナの耳たぶを甘噛みし、マリウスが密かに笑った。
その快感は一瞬だった。
わざとなのか、マリウスはもう一度そこに触れることはしない。マリウスが花唇の縁をなぞるたび、もどかしい、うずくような快感が、シリアナの下腹部と腰のあたりに溜まっていく。
「あっ、やあっ、お願い」
弱弱しい刺激は、徐徐にシリアナの体の中にたまり、シリアナの体の中を一杯にする。
この身うちせきとめられた快楽を解放して欲しい。
シリアナは敷布を両手でしっかりと握り、首を左右に降って、マリウスに懇願する。
「まだ、もう少し待って」
言ってマリウスは、シリアナの左耳たぶを甘噛みし、耳の裏側をなめる。
卑猥な、湿った音が、シリアナの耳のすぐ側でする。
マリウスは、空いている手でシリアナの左の乳房を下から包み込む。親指と人差し指で、つんと尖った先端をつまんだ。
掌で乳房全体をやわやわともみしだき、先端をひねったり、転がしたり、つぶしたり、シリアナの乳房に刺激をあたえる。
「はあっ、っぁ、ゃあっ」
言葉にならない喘ぎ声が、シリアナの口からもれる。
マリウスはシリアナの耳たぶの内側をなめると、さらに奥に、舌を差し込んだ。
「ひゃっ」
シリアナの耳を犯す、濡れた感覚。シリアナの肌が総毛立つ。
マリウスの舌は、まるでそれだけが意志を持った生き物かのように、シリアナの耳の中を縦に、横に、自由に動き回る。
「あぁっっ」
シリアナは背を反らせ、叫び声を上げた。
そのすきに、マリウスの左手の人差し指は、シリアナの脚の付け根の間にある花唇に割り入り込む。
「あっ」
狭隘の入り口をなでられ、シリアナの喉から思わず声が出る。
マリウスはシリアナの耳から舌を引き抜き、シリアナの耳元で笑った。
「こんなに濡れて」
マリウスの人差し指は、シリアナの狭隘を押し開くことはせず、花唇の間をいったりきたりする。
「貴女の両側の襞が、ふっくらと膨れている。貴女の婚約者は、貴女のここに触ったのですか?」
「いいえ」
シリアナは首を左右に振る。
レザイルと別れた時、シリアナはまだ十三だ。初潮を迎えていれば、レザイルの妻になっていたかもしれない。だが、あの頃、シリアナはまだ、幼いままだった。
「惜しい男だ。貴女を自分のものにできずに死ぬなんて。婚約者が敵国の将のものになるなんて、今頃、貴女の婚約者はあの世で悔しがっているでしょうね」
「……そんなこと」
レザイルの魂はきっと、シーリーン女神の懐に抱かれ、現世での傷を癒すために静かに眠っているはずだ。
その微睡みの中で、現世の記憶はすべて魂の深い淵に沈み忘却され、まっさらになった魂は、再びこの世に誕生する。
過去にとらわれているのは、シーリーン女神の下にいるレザイルではなくシリアナだ。
マリウスはシリアナの異母兄を殺した。シリアナが異母兄に渡したオオカミの牙の首飾りのせいで、マリウスは、自分が殺したのはシリアナの婚約者だと思い込んでいる。
今ここで、マリウスに乱暴に抱かれれば、三年前のあの晩、一人生き残ったというシリアナの罪悪感は薄れるかもしれない。マリウスが嫉妬にとらわれ、シリアナのことを抱くというのならそれでいい。だが、シリアナの罪悪感を薄れされるために、マリウスを利用するのは、卑怯だと思う。
シリアナは右手をのばし、マリウスの頭を抱きしめてささやく。
「違うの。あなたが殺したのは、わたしの異母兄です」
マリウスの動きがとまる。マリウスは左手をシリアナの下穿きの中から引き抜くと、顔を上げて、シリアナの頭の脇に両手をついた。
「どういうことです?」
「あの首飾りは、異母兄に渡したものです」
シリアナは二の腕までずりさがってしまった肩ひもを元に戻し、肌着の中に胸を隠しながら応える。
「では、私は貴女の兄上を?」
「ええ。わたしの父は、第五十三代ダナーン聖公国国王エルネスト陛下の弟でした」
「では、貴女はバレ王家の?」
「いいえ」
シリアナは首を振る。
「ダナーン族の純血主義はご存知でしょう。わたしの父は、シラールの民に恋をしました。それはダナーンでは許されることではなかった。父は、ダナーンでの地位も王族として名誉もすべて捨て、わたしの母と生きるため、シラールの民となりました。
わたしはバズド族の一員として、シリン高原で生まれ育ちました。自らがシラールの民であることを恥ずかしく思ったことはありません。ですが三年前、わたしの部族は他部族に襲われ滅びました。その時わたしは、父の生家であるバレ王家を頼って逃げ延びました。その時に初めて出会った兄妹です。
屋敷に部屋を与え、衣食住を保障し、異母兄はわたしによくはしてくれましたけど、蛮族の血の交じったわたしを、妹と思ったことは一度もなかったでしょう。事実わたしは、かの国で、王家の一員とした遇されたことは一度もありません。異母兄は父に対する義務から、わたしの面倒をみていました。
かの国でのわたしの正式な名は、シリアナ・シリンです。バレ王家の名を名乗ることは許されていませんでした。
それに婚約者も、わたしがシリン高原でバズド族の一員として暮らしていた時に、親が決めたものです。
彼のことは、実の兄のように慕っていました。でも、あの頃は幼くて、恋と友情の区別もつかなかった。
だからあなたが、わたしに対して気に病むことは何もないんです。きれいな髪ですね」
言ってシリアナは、マリウスの耳の横に流れる金髪をすく。
シリアナの指の間からこぼれ落ちるマリウスの金髪が、窓から差し込む光を反射して、きらきらと輝いた。
「それを言うなら貴女の髪の方が美しい。まるで、夜の闇を閉じ込めたかのかのように深い色をしている」
言ってマリウスは、枕の上に流れるシリアナの癖のない黒髪を一房とって口づけた。
「私は、貴女の兄上を貴女の婚約者だと思い込んでいた。純血主義の強いダナーンにおいても、シラールの民である貴女と婚約するほど、貴女を愛していたのだと思っていました」
「まさか」
シリアナは喉の奥で笑った。
「異母兄はどこまでもバレ王家の人間でした。一族の純血を尊び、ダナーン女神への信仰に生きた人でした。そんな異母兄です。ダナーン族の女性以外を愛することはなかったでしょう。でもわたしは、いつも異母兄がうらやましかった」
「どうして?」
「異母兄はいつも、自分が信じるものを疑わず、それに対して真っすぐでした。時にそれが、異母兄を高慢にすることもありました。でもすべて、わたしがバズド族が滅びたあの日に失ったものでした。
それより、部族に関係なく、シリン高原に住むすべての人人に共通して伝わる歌があるんです。わたしも好きだった歌です」
「貴女の好きな歌なら聴いてみたい。歌ってもらえませんか」
――悲しみも喜びもすべては風に流そう
――死者の魂は女神に委ね
――今を言祝ごう
――それが我らのつとめ
――我らが使命
――今を喜び
――今を歌え
――幸いの風は常に我らともにあらん
シリアナは節をつけて歌を歌う。
マリウスは目を閉じてじっと聴いていたが、歌が終わると目を開けて言う。
「兵たちの中にいるシラールの民が歌っているのを聞いたことがあります。きれいだ。だが、物悲しくなる旋律ですね」
「ええ。ですが、シリン高原に住む人人は、この歌を歌って日日を過ごします。
シリン高原がどんなに厳しい場所がごぞんじですか?」
「書物では読んだことがあります。一年中、山から吹き下ろす冷たく乾いた風が吹き、土地は痩せ、乾いた土地に茂るのは、背の低い牧草ばかり。だがそれも、夏になれば、乾燥からほとんどの植物は枯れ、冬になれば大地は雪に覆われてしまうのだと」
「ええ。ですから部族同士の小競り合いもしょっちゅうです。牧草のなくなる季節は特に。外からものを手に入れるにも金が必要です。どうやって金を手に入れるかご存知ですか?」
「いいえ」
マリウスが首を振る。
「他の部族を襲うんです。襲って羊を手に入れ、それを売る。もしくは、女子どもを攫って、奴隷として売りさばく。そうやって金を手に入れ、外のものを買い、厳しい季節を耐えしのぎます。だから、失ったものを悲しんでいては前に進めない。人人はこの歌を歌って、自分たちの心を慰めながら生きていくんです。
でもわたしは、ずっと後悔していました。三年前のあの日、一人生き延びてしまったことを。
それからは、二度と、風の声を聞けることはないと思っていました。でも、貴方と出会って変わった。貴方と出会ってようやく、わたしは再び風の声を聞くことができたんです」
比喩ではない。シリアナは風の巫女だ。
風の精の声を聞き、大地の血潮を感じ、草木とともに歌を歌い、星を見て、過去を、現在を、未来を占う。
三年前に自らの意志で力を封じ、シリアナはシーリーン女神から心を閉ざした。それを再び開くきっかけとなったのは、ダナティアを発つ三日前の晩に起きたクローディアの逃走だ。
でも、今、目の前にいる男がいなければ、マリウスがシリアナをダナーンから解放してくれなければ、シリアナは今も、シーリーン女神に心を閉ざしたままだっただろう。
「公爵様はわたしを、悲しみの中から救い出してくれました。公爵様は、シーリーン女神がわたしに与えてくださった、わたしの幸いの風です」
シリアナは手を伸ばし、マリウスの左頬に触れる。
「公爵様が望まれるのなら、どうかわたしを公爵様の妻にしてください」
「私の気持ちは知っているでしょう」
マリウスは言って、シリアナの右手をとると、その甲に口づけた。
「どうか公爵様の望むままに」
シリアナは言って、マリウスの手から右手を引き抜くと彼の後頭部に回し、彼の頭を胸に抱き寄せた。
「私は幸せ者です。貴女を自分のものにできるのだから。でも、貴女には辛いかもしれない」
「構いません。公爵様の与えてくださるものなら、わたしは歓んで受け入れます」
シリアナはマリウスの髪をなでながら、彼の頭にそっと唇を寄せた。
「もう、貴女に許しは請いません」
言ってマリウスは、顔を上げた。菫色の瞳がまっすぐにシリアナのことを見つめている。
シリアナは頭を持ち上げ、彼に口づけた。
彼の片手が後頭部に回る。
どちらからともなく、二三度軽く口づけを交わす。
マリウスは唇でシリアナの下唇を軽くはさんだり舌先で軽く触れることを繰り返し、シリアナの唇を割り入ってきた。
裏側から歯列の下を優しくくすぐられる。
シリアナはくすぐったくて顔を離そうとする。
マリウスが後ろに退くシリアナを追いかけてくる。
後頭部が枕にぶつかり、それ以上逃げられなくなる。
マリウスはシリアナの後頭部と枕の間から手を引き抜き、シリアナの顎をつかむ。
力強くシリアナの唇を吸いながら、さらに深くシリアナの口腔に舌をすすめた。
マリウスの舌がシリアナの舌をとらえようと、ゆっくりと動く。
シリアナは彼の動きに合わせ、彼の舌に自分の舌を絡めるようにそっと触った。
マリウスは男女の行為にまだ慣れないシリアナに合わせて、優しくゆっくりと舌を動かし、シリアナを愛撫する。
マリウスの右手は、シリアナの脚に這わされ、脛から腿へと肌着をはだけさせながらゆっくりと上がってくる。
彼はそのまま右手をつかって、口づけの合間にシリアナの肌着を脱がした。
マリウスが、シリアナの肌着を投げ捨てる。マリウスの前に下穿きだけをまとった姿がさらされる。
恥ずかしくて、シリアナはマリウスから顔をそむける。
右腕をつかって胸の双丘を隠そうとしたが、マリウスはその手首をつかんで、枕の下に押えつけた。
「隠さないで。貴女の全てを知りたい」
言ってマリウスは、シリアナの胸の左右の頂を交互に軽くついばむ。
「やっ」
湿った感触に思わず声が漏れる。シリアナは慌てて左手で口をふさいだ。
「可愛い女性だ」
マリウスは面白そうに笑って、シリアナの口から左手をどかし、自らの手をシリアナの頬にそえると顔を上向かせた。
「言ったでしょう。貴女の全てを知りたいと。恥ずかしがらずに、貴女のその可愛らしい声も、甘い吐息も全て私に聞かせてください。貴女が今から私の与える全てのものを歓んで受け入れてくれたのなら、今この瞬間、私はこの世で一番の果報者になれるでしょう」
「今だけで構わないのですか?」
マリウスに主導権を握られているこの状況が面白くない。シリアナは少し拗ねた風を装って、マリウスに訊ねた。
「ええ。今この瞬間、貴女が私のものなのだと感じたい。そんな一瞬を、貴女と共に過ごす日日に積み上げていきたい。愛しています。シリアナ・ドゥ・オードラン」
言葉では勝てない。素直に言葉で応えるのはいやだった。シリアナはマリウスの首に両腕を絡めると、マリウスに口づけをした。
そんなシリアナの気持ちを知ってか、マリウスが喉の奥で笑う。
「勝気な女性だ」
シリアナは頭を枕に戻すと腕をおろして、ふい、と横を向いた。
マリウスがシリアナの頬をなでて静かに笑う。
「でも、そんな貴女が愛おしい。私は貴女に夢中です」
マリウスは言って、シリアナの首筋に、鎖骨の下に、左右の乳房の間に、腹部のくぼみに、順をたどって口づけを落とした。
マリウスが、シリアナの下穿きに手をかける。
シリアナは腕をのばし、マリウスの手のとどめようとしたが、マリウスはシリアナの脚から下穿きを引き抜いてしまう。
マリウスの前に、シリアナの裸体が露わになる。
「華奢で、でもよく引きしまっていて、それにこの肌理の細かい白い肌。綺麗な体だ」
マリウスは言って、シリアナの右足を折り曲げると、外側に開いた。
シリアナの秘所が外気にさらされる。
シリアナは恥ずかしくて体をよじって逃げようとしたが、しっかりとシリアナの脇腹を押さえたマリウスの左手は、それを赦さない。
マリウスが右腿の内側に口づけた。
「やっ」
甘噛みしながらマリウスの唇が、脚の付け根の方へと移動していく。
「やめて」
マリウスの髪に手を両手を差し入れ、首を左右に振ってシリアナは懇願した。
だがマリウスは動きをとめない。
シリアナの右脚をさらに広げると、左脚の内腿を強く吸いあげ、右手を秘所滑り込ませた。
マリウスは花唇の間に指を沈みこませて、シリアナの割れ目を何度もなぞる。
「やっ」
自分でも触れたことのない場所。マリウスの視線がそこに注がれているのを感じる。終わるのなら早く終わって欲しい。羞恥となかなか奥へ進もうとしない指の動きにもどかしさが募る。
行為をすすめて欲しいのかやめて欲しいのかわからなくなって、マリウスの手首をつかむ。
「お願い。早く」
眼をつむり、恥ずかしさを堪えて頼んだ。
「私は今すぐにでも貴女と繋がりたいが、貴女は初めてだ。慣らしておかないと、辛い思いをするのは貴女です。でも、どうしてもというのなら、貴女の希望に従いましょう」
マリウスが悪戯っぽく笑った。
今、この場の手綱を握っているのはマリウスだ。シリアナの自由になるものは何一つない。だがそれを、心地よいと思っている自分がいた。
マリウス肉厚な手がシリアナの左の脇腹をなでる。
くすぐったくて、シリアナはきゃっ、と悲鳴を上げる。
シリアナの緊張が緩んだすきに、マリウスがシリアナの秘所に口づけた。
突然のことに、シリアナは息を呑んで目を開けた。
「……公爵様、――そんな場所……」
シリアナはマリウスの頭を両手でつかんで引きはがそうとする。それとマリウスが、シリアナの一番敏感な場所を口に含んだのは同時だった。
「――っやあぁぁっ――」
快楽が、シリアナの背筋を通って、頭の天辺まで走り抜けた。
マリウスの頭を強く掴んでシリアナは体を弓なりに反らし、甲高い悲鳴を上げた。
「……お願い、やめてください」
立てていた左膝から力が抜ける。
シリアナは寝台の上にだらしなく脚を放りだし、あえぎ声の下からマリウスに頼んだ。
しかしマリウスはやめようとしない。
脇腹を押さえていたはずの左手が、シリアナの下生えをなで、さらへ下へとさがる。
二本の指で、花唇の上部を割り開き、奥に隠れていた花芯をさらけだし、軽く唇に咥えたり、舌で愛撫したりする。
敏感な花芯に与えられる温かく湿った感触が、シリアナの快楽を呼び覚ます。マリウスがその場所に触れる度、シリアナは体をのけぞらせ、あえぎ声を上げた。
「早くして欲しいと言ったのは貴女でしょう」
花芯を愛撫する合間に、マリウスがささやいた。
マリウスの唾液にぬれた花唇は敏感になっている。花芯にかかるマリウスの吐息に、シリアナの背筋が粟立った。
花唇の下の方をなぞっていたマリウスの右手が、シリアナの左腿の内側にそえられ、大きく脚を開かさられる。
「貴女の貞操を守る襞がふっくらとふくらんで、薄紅色に染まっている。気持ちよかったですか」
シリアナの秘所を見て、マリウスが言う。
恥ずかしい。だからといって、男の前にさらされた秘所を自分の掌で隠すのは、この行為の卑猥さを自ら肯定しているような気がしてできない。
シリアナは右腕を両目の上にのせ、左手でぎゅっと敷布を握り、首を左右に振った。
「素直になってしまえば楽なのに」
マリウスが面白そうに笑い、充血したシリアナの花唇を指で軽くはじいた。
「――ひゃっ」
痛みとむずがゆさ、そして背骨を伝って頭頂部まで駆け抜けていった快感に、シリアナは両目の上から腕をどかし、思わず声を上げた。
マリウスがシリアナ開いた脚の間に座っている。彼は愉快そうに笑っていた。
「どうしてあんなこと」
シリアナはマリウスの行為に抗議する。
「初めての貴女に恥ずかしがるなと言うのは無理でしょうが、私は貴女に少しでも悦びを感じて欲しいと思っています。これだけは忘れないでください」
シリアナの頭の両脇に手をつくとマリウスは、シリアナの瞳を見つめて言い、そっと口づけた。
マリウスの体温がゆっくりと離れていく。シリアナは口づけの時に閉じた目を開けた。
「公爵様?」
シリアナの呼びかけに、シャツを脱ぎながらマリウスが微笑んだ。
マリウスは脱いだシャツをその場に置く。
鍛えられ、厚く盛り上がった胸。見事に腹筋が割れ、陰影のはっきりとした腹。剣を振るうための筋肉のついた太くたくましい腕。マリウスの上半身は、戦士としてよく訓練されていることのわかる堂堂とした体つきをしていた。
これから男とすることを考えると恥ずかしい。シリアナは顔をそむけた。
マリウスが喉の奥で秘かに笑う。シリアナの隣に体を横向きに横たえ、片肘を寝台の上につき、握った拳で頭を支える。
「少し慣らしておかないと。辛いのは貴女です」
マリウスは片手でシリアナの脚の付け根を割り、指先で花唇をそっとなぞる。
「――やっ……」
襞をかき分け、マリウスの指先が秘所に侵入してくる。
その場所に、ちりちりと引き攣れるような、かすかな痛みを感じる。
マリウスはそれ以上指を奥に進めることはせず、胎で円を描くように、狭隘の縁にそってゆっくりと指を動かした。
シリアナ自身、自分の身体の中にそんな場所があるなんて知らなかった。まだ何者も受け入れたことのないそこは、きつく狭まっている。無理矢理押し広げられる違和感。敷布を両手でしっかりと握り、マリウスの手首を太ももの間にはさんで、下肢をきゅっと締めつけた。
「大丈夫。力を抜いて」
マリウスの言葉にシリアナは、吐き出す息とともに下肢に込めた力を抜いてみる。その時機を見計らって、マリウスは一気に指を奥に進めた。
「あっ、いやっ……」
我慢できないほど痛いわけではない。ただ、初めて存在を知ったその場所で感じる、男の節ばった太い指に恐怖を覚える。
シリアナは首を左右に振り、身体を横にすると男の背に片手を回して、その逞しい胸に顔を押しつけた。
マリウスが静かに笑う。マリウスの胸に押しつけた顔の部分から、その振動を感じた。
「お願い、やめ……」
だがその言葉は最後まで言えない。
マリウスが内壁を軽くひっかくように、指先を胎で曲げたからだ。
「あっ、やぁっ」
痛いと言うのとも違う。初めて受け入れた異物を拒否するかのように、そこはマリウスの指をきゅっと締めつける。
膣内をぎちぎちと満たす圧迫感に、シリアナは腰を退いて首を振る。
「広げた方が楽でしょう」
マリウスは言い、自らの体を乗り上げながら、シリアナの体を仰向けに倒した。
膝頭でシリアナの脚を割り、体を押し入れる。
シリアナの膝の横に手を当てると、大きく開かせ、膝を曲げて持ち上げる。
自分でも、膣内がわずかに広がったのがわかった。
円を描くように、マリウスが大きく指を動かした。
ごりりと内壁を削られるような、鈍い痛みを身体の奥で感じた。
「やぁっ」
シリアナは枕の上で首を振ると、片手でマリウスの肩を押した。
「痛かったですか?」
マリウスが心配そうにシリアナのことを見つめていた。シリアナはこくりと頷く。
「気が急いでしまいました。もうしわけありません」
マリウスは幼い子をなだめるように、シリアナの左のこめかみに口づけを落とした。
頬に、首筋に、胸の二つの頂き、そして脇腹、膝を深く折り曲げさせられた左の太ももの内側と、順をたどって口づけは下におりてくる。そしてマリウスは、一番敏感な花芯をそれを包み込む襞ごと唇ではさんだ。
「やあぁぁっ」
花芯をつぶされ、じれったいような痛みを感じる。シリアナは善がり声とも悲鳴ともつかない声をあげた。
自分でも初めて聞いたその声をに驚き、シリアナは手の甲で口をふさいだ。
シリアナの反応に気をよくしたのか、花芯から唇を離し、マリウスが低い声で笑う。
マリウスの吐息が、マリウスの唾液に濡れて一段と感じやすくなったその場所にかかる。
くすぐったいような、こそばゆいような感覚が背筋を駆け上がる。シリアナはぶるりと体を震わせた。
「ここが一番気持ちいいようですね」
マリウスは言い、花芯を隠すように存在する襞を舌でそっとめくると、舌で執拗に花芯を愛撫する。
「あっ、やぁっ」
ざらりとした舌の表面が花芯をなでる度、喉の奥からはしたない声がせり上がってくる。
その出口を手の甲でふさいでいては呼吸をするのも苦しくて、シリアナは口許に載せていた手を下ろした。
与えられ快楽が苦しくて、シリアナが腰を退いて逃げようとすれば、胎に入ったマリウスの指が、追いかけるように奥へと侵入してくる。
肩口が枕に乗り上げる。寝台の飾り板に頭がぶつかる。シリアナは体を横にひねって逃げようとしようとしたが、マリウスに脇腹をつかまれはばまれる。
片脚を男の肩にかけたみっともない格好。
シリアナの両脚の間で、舌と唇をたくみにつかって花芯を愛撫する、マリウスの上半身が忙しなく上下に動いている。
男の動きに合わせ、男の肩にかけたシリアナのつま先がこぎざみに揺れている。
恥ずかしい。何も見たくなくてシリアナは目をつむる。と逆に、マリウスがシリアナの花芯を愛撫するぴちゃぴちゃと卑猥な水音と男の荒い息遣いが、シリアナの耳朶に響く。
「っはぁ」
背筋から頭頂部までゆっくりと昇ってくる快感をやり過ごすため、シリアナは小さく吐息を漏らす。
何か物足りない。うずくような快楽が、臀部と腰の境目、そして下腹部に溜まってくる。
やめて欲しいのか、続けて欲しいのかわからない。シリアナは左手をマリウスの頭に伸ばし、髪の中に手をさしこんだ。
花芯への舌での愛撫はやめず、マリウスが膣内に二本目の指を遠慮なくさしこんだ。
「やあぁぁぁっ」
内壁をとろりと愛液が伝い落ちる。胎から分泌された潤滑油は、シリアナの脚の付け根までしとどに濡らしていた。
そのおかげで痛みこそ和らいだものの、質量を増やされればやはり辛い。
内壁がマリウスの指をぎちぎちと締めつける。
それに逆らうように、マリウスが胎で二本の指をゆっくりと開く。
無理矢理押し開かれ、ぎしぎしと軋むような痛みを身体の奥深くで感じる。
「いやぁっ」
シリアナは喉をのけぞらせて叫んだ。
マリウスが痛みをなだめるように、シリアナの花芯を上下の唇でそっとはさみ、律動的に力を加えたり緩めたりする。その合間に、花芯の先端をちろちろと舌先でつつかれる。
「っはぁ、ゃぁっ」
花芯の頂きからじんじんとしびれるような感覚がわき起こり、全身に広がっていく。
シリアナはマリウスの頭にそえた両手のひらに力を入れ、首を左右に振った。
「はぁ、ぁあっ」
花芯から与えられる快楽だけでは物足りない。シリアナの胎の内壁がきゅっと狭まり、さらなる刺激をねだるように、マリウスの指をしめつける。
「ぁ、ぃやあっ」
自分の身体なのに、思うようにならない。そこだけが別の生き物のように、快楽を求めて蠢き出す。
手首の部分をゆっくりと回して、マリウスが広げた指を内壁になすりつけるようにする。
「あぁ、はあっ」
胎をえぐられるような痛み。シリアナは大きく口から息を吐いて、それをまぎらわす。
マリウスが花芯を唇ではみながら、時折舌で花芯の脇にやさしく触れる。
「ぁああ、やあぁ」
マリウスの濡れた舌が、花芯の脇の一箇所に触れるたび、シリアナの身体がびくりと痙攣する。
シリアナは枕の上で首を左右に振り、マリウスをそこから引きはがしたくて、両手でつかんだ彼の頭を軽く上に引っ張る。
マリウスはそれには応じず、花芯のシリアナが一番反応する場所を舌先で執拗に責め立てはじめた。
「あぁ、はぁあっ」
花唇の一番敏感な場所から、頭頂部へと走りぬけていく快感。とめどなく押し寄せるその快感を耐えるため、シリアナは短く息を吐き出す。
シリアナは、マリウスから与えられる快感に必死に堪える。それとは反対に、身体はマリウスから与えられるモノに素直に反応し、胸の鼓動は徐徐に増していき、シリアナの呼吸は忙しくなる。
「あっ、やぁっ」
一点に与えられる刺激。そこからひろがる快感に身体中が支配される。
身体の奥がきゅっと狭まる。足の甲が限界までそりかえり、つま先がぴんと伸びる。
内壁からの圧力により、開いていたマリウスの指先が閉じる。
それに反抗するように、マリウスが指先をぐっと奥につきいれる。
身体の一番奥、こつり、と行き止まりに当たったような痛み。
それなのにマリウスは、さらに奥を求めて、指を進めようとする。
「ぃやあぁぁ」
身体が引き裂かれる、そんな恐怖を覚え、シリアナは身体全体を反らし、悲鳴を上げた。
しかしマリウスは容赦しない。
指を少し引き抜くと、また奥を求めて指先をつきいれる。
「いやぁああ」
マリウスが狭隘の一番奥まった場所を指先でつつくたび、シリアナは悲鳴を上げた。
その間もマリウスは、花芯の一番敏感な場所を舌先で刺激することをやめない。
高まる快楽。シリアナの胎が、マリウスの指をさらに締め付け上げる。
マリウスは、シリアナの胎で指を上下に往復させるのをやめる。
代わりに二本の指の先をくいと少し曲げ、シリアナの一番感じる一箇所を指の腹でひっかき、小刻みに刺激する。
「あっ、はぁっ、やぁっ」
シリアナの口から嬌声が漏れる。
その間もマリウスは、シリアナの花芯の脇の部分を丹念に舌先で愛撫していた。
全身を満たしていく快楽。マリウスの舌先が花芯のその部分に触れる度、シリアナは喉の奥で息を呑みこむ。
膣が無意識にきゅっとしまる。胎の一番感じる場所に当たる、マリウスの指先を強く意識してしまう。
マリウスの舌先が、一瞬シリアナの花芯から離れた。
快楽が弱まる。シリアナの意志を無視して、全身を支配しようとする快楽から逃げようと、シリアナは吐く息とともに身体から力を抜く。
だが再びマリウスの舌先がシリアナの花芯に触れると、その努力も虚しく、快楽は背骨伝ってを駆け上がり、シリアナの全てを奪い去る。
「はぁっ、やぁっ」
シリアナは両手でマリウスの頭を掴んだまま、首を振る。
そんなシリアナの様子を面白がるように、マリウスが笑った。
「恥ずかしがらないで。私の愛撫に応える貴女はとても美しい」
マリウスはシリアナ秘所から顔を上げる。そこに差し入れていた二本の指をゆっくりと引き抜く。
内壁が擦れる感覚に、シリアナは思わず息を飲んだ。
マリウスは体を退きながら、自らの肩にかかったシリアナの脚の足首を右手でとった。
シリアナの両手が敷布の上に落ちる。
マリウスは寝台の上に座り、左手をシリアナの右足の裏にそえると、その足の甲にそっと口づけた。
「――公爵様、そんな場所に……」
マリウスが口づけをやめ、顔を上げる。足の甲からマリウスの体温が離れていく。
マリウスは自分の体の横にシリアナの足を置くと、シリアナを見て微笑んだ。
「私の生涯を愛とともに貴方の上に捧げます」
「わたしも、公爵様に相応しい妻になるとお約束いたします」
シリアナの言葉にマリウスは笑い、両手をシリアナの頭の脇につき、シリアナに覆いかぶさるような体勢をとると、シリアナのことをまっすぐに見つめてきた。
「私は、オードラン公爵家の夫人として貴女を望んだわけではありません。一人の男として、私は貴女が欲しかった。シリアナ、どうか私の名に愛を誓ってもらえませんか」
「――マリウス様」
シリアナは右手をマリウスの頬にのばし、言葉を続ける。
「いついかなる時も、たとえ逆風にさらされた時にも、シーリーン女神が二人の道を分かたぬ限り、貴方と共に人生を歩んでいくと誓います」
シラールの民が婚姻の儀式の際に伴侶となる相手に告げる言葉。それを口にし、シリアナは両腕をマリウスの広い肩に絡めると上体を持ち上げ、マリウスに口づけた。
目をつむり、彼の肩に這わせた掌で、マリウスの筋肉に覆われたたくましい背中を感じる。
マリウスは口づけをしたままリアナの体を寝台に押し戻し、上下の唇をはむような口づけを何度か繰り返した。
「私が今、どれほど幸せを感じているか分かりますか」
マリウスは上体を持ち上げ、シリアナのことを真っすぐに見つめて訊ねてきた。
シリアナは首を左右に振った。
「公爵様がなぜわたくしを望んでくださったのか、正直に言えば分かりません。シラールの民と言えば、ダナーンでは蔑まれることが常でしたから」
シリアナは顔を横に向け、マリウスから視線をはずした。
マリウスは静かに笑い、シリアナの頬に手を当てると、自分の方に向き直らせた。
「ダナーンで暮らしていたと言うのなら、貴女の恐れも当然だと思います。今すぐに私の心を信じて下さいとは言いません。ですが少しずつでも、私は貴女と心を通わせてゆきたい。それより、そろそろよいですか、シリアナ」
言ってマリウスは、まだ履いたままになっている下服越しに、自身の昂ぶりをシリアナの茂みに押しつけてきた。
固く盛り上がったマリウスの分身は何よりも雄弁に、シリアナの体を欲していると主張している。さっき散散マリウスに恥ずかしい場所を愛撫されたばかりだと言うのに、これから先マリウスにされることを考えて、カッとシリアナの頬に血が上る。先ほどマリウスから与えられた痛みと悦び。それにはまだ先がある。マリウスを正面から見つめているのは恥ずかしくて、シリアナは目を伏せた。
「怖い、ですか」
マリウスの問いに、シリアナは小さく頷いた。
唯一の財産とも言える家畜をいかに殖やすかは、シラールの民にとって重要な問題だった。毎年秋も深まってくると、雌羊たちを囲いの中に一箇所に集め、四十から六十頭程をまとめて、首の辺りに縄を結んで横に一列につなぐ。雌羊の準備が終わると、放牧させていた種雄を捕まえて連れてくる。囲いの中に連れてこられると雄羊は、一頭終わればまた次の一頭と、雌羊の上で休みなく腰を振り続ける。雌羊は足元にある草をはんだり、のんきに鳴いたりして、いつもと変わらぬ様子で自分の番が来るのを待っていた。ただ、生命を増やすためだけの行為。それは少しも快いものには見えなかった。
だが、マリウスから与えられたものは違った。生命を育むためだけの行為ではない。シリアナを求めるマリウスの肉欲の裏側には、常にシリアナのことを思いやる優しさがあった。
「ずっと、子を生すためだけ、肉欲を満たすためだけの行為だと思っていました」
シリアナの応えに、マリウスが笑った。
「確かに、子もできれば、肉欲も満たせるでしょう。だがそれ以上に、私は貴女を大切にしたいと思っている。私は貴女に愛を与えたい」
「公爵様の望むままに」
「貴女にはマリウスと呼んで欲しい」
「はい。マリウス様」
シリアナは男の名を小さく呼んで、頷いた。
「愛しています」
男は言い、シリアナの頤をつかむと、正面を向かせて、シリアナに口づけてくる。
舌先で唇を無理矢理押し割り、歯列をなぞり、口腔に深く侵入してくる。シリアナの舌を絡めとり、強く吸い上げる。
「うっぅ、ぅうん」
口腔に溜まった唾液の飲み下し、シリアナは鼻から息を吐く。
角度を変え、舌をしきりにうごめかし、男はシリアナを求めた。
口づけの合間にマリウスは、下服と肌着をまとめて脱いで、寝台の外に放ってしまう。
二人の間を遮るものは何もない。
硬く立ち上がった欲望を、マリウスがシリアナの腿のつけねの間にそっと当てた。
先ほどのマリウスの愛撫で、そこはすっかり濡れていた。
秘所の入り口を、マリウスが陰茎の先端で何度かこする。
覚悟してきたはずなのに。先ほどマリウスがそこに指を突き入れたときの痛みが脳裏に蘇り、恐怖を感じる。口づけをされたまま、シリアナは首を左右に振った。
マリウスは口づけをやめ、両腕で体を持ち上げ、上からシリアナを見下ろしてくる。
無理だと伝えたくて、シリアナは首を左右に振った。
マリウスは静かに笑い、シリアナの左の頬に手を当てた。
「大丈夫。無理はしませんから」
「――ですが……」
シリアナは下腹部の辺りをちらりと見る。天を仰いで張りつめたマリウス自身は太くたくましく、とても受け入れられるとは思えなかった。
「大切にします」
マリウスは言い、なだめるように、シリアナの額に口づけた。
左右のこめかみ、喉元、首筋、鎖骨、胸の二つの頂と、マリウスの口づけが、順を追って下におりてくる。
触れるだけの口づけは、男の鼻腔から吐き出される息とともに、シリアナの肌を弱く刺激した。
目を固くつむり、首をのけぞらせる。敷布をぎゅっと握り、シリアナはくすぐったさを堪えた。
マリウスの両手が膝頭に触った。強い力で握られる。
シリアナは目を開けた。
「そろそろ良いですか?」
マリウスが苦笑する。マリウスは自身の股間の間にちらりとに目をやった。
赤黒い色をした、大きく立ちあがった彼自身がそこにいた。周囲を這う太い血管が、皮膚を持ち上げ浮き上がっている。
無理だと思って、シリアナは首を左右に振る。
「もう、待ちません」
マリウスは宣言し、シリアナの膝を曲げ大きく開かせる。その間に自身の体を間に押し入れた。
広げた脚の間に男を迎え入れたあられもない姿。首をゆるく振って反抗する。
「大丈夫」
マリウスは言い、シリアナのこめかみに口づけた。
そのまま頬に唇を寄せ、音を立てて吸うと、小鳥がついばむような口づけをシリアナの唇に幾度ととなく繰り返す。
「つらかったら、私の背にしっかりとつかまて下さい」
マリウスは、寝台の上に投げ出されたままになっていたシリアナの両腕を取ると、自分の体に抱きつかせた。
「――っぅ!?」
花唇のすぐ奥。狭隘の入り口に生まれて初めて感じる圧迫感。押し入ろうとするマリウスの雄芯が、体を引き裂くかのような痛みを与える。
マリウスの広い背にすがり、シリアナは息を呑んだ。
狭隘の入り口がすぼまる。それでもマリウスは腰を進め、シリアナの躯を強引に割り開こうとする。
体を真っ二つに切り裂かれる。そんな恐怖を感じた。
シリアナは喉を反らせ、わき上がる悲鳴を唇を強く噛んで抑える。
マリウスはシリアナの腰をつかんだ手で、退きがちになるシリアナの体をしっかりと押さえ込む。
「――くっ」
マリウスが呻く。
「力を抜いてください。このままでは挿いらない」
このまま奥に、彼の欲望を迎え入れることが怖い。
シリアナは弱く首を振って、無理だと伝える。
「仕方がない。恨まないで下さい」
マリウスは言い、シリアナの腰をつかむ手に力を入れ勢いよく引き寄せた。と同時に、シリアナの花芯に腰を打ち付ける。
「――っ!? ぁ、いやぁぁぁぁぁ――」
悲鳴とも嬌声ともつかない叫び声が、シリアナの喉からほとばしった。
マリウスはそれを無視して肉塊で狭隘を押し開き、処女地を奥へ奥へと進める。
酷くつらかったのは最初だけだったが、マリウスが肉塊を前へ進める度に、みしみしと軋むような痛みが下肢を中心に体全体に響きわたる。
シリアナはマリウスの広い背に抱きつき、爪を立てた。
「挿いった」
マリウスが動きをとめ、ほっと息をついて言った。
マリウスが片手で、しっかりと自身に抱きついていたシリアナの体を引きはがす。
いつの間にか浮いていた背を、寝台の上に落ち着けられた。
マリウスがシリアナの顔の脇に両手をついて、上体を持ち上げる。
そのわずかな動きが下肢から伝わり、胎にこすれるような痛みを感じる。シリアナはかすかに顔をしかめた。
「大丈夫ですか?」
お互いのわずかな動きでも下肢に伝わり、胎内に他者の存在を強く感じる。
それを感じたくなくて、シリアナは小さく頷いた。
「マリウス、さまは?」
「幸せです。愛する女性と一つになれたのですから」
マリウスが目を細め、目尻を下げて笑う。
真っすぐに向けられる愛情がこそばゆい。
シリアナは首を横にひねり、顔をそらした。
「貴女に、愛を向けて欲しいと望むのは早計だと分かっています。こうして受け入れてもらえるだけで十分なのだと。でもいつか、貴女も私を愛してくれますか?」
寝台の上に広がった、シリアナの髪を優しくなでながらマリウスが言う。
その真摯な声音に、シリアナはマリウスのことを正面から見つめた。
男は少し寂しそうに笑っていた。
シリアナは、マリウスの左頬に手を伸ばす。
「人の心は気ままに吹く風のようなものです。自分自身でさえ自由にできない。未来のことは約束できません。
でも、愛は育むことができるのだと両親が言っていました。お互いの心がけ次第で深まっていくものだとも。
今の私に、両親のその言葉の意味は理解かりません。でも、貴方とならともに、生きていきたいと思っています。貴方とともに、両親の言っていた言葉の意味を実感してみたい。今日から先、わたしの魂がシーリーン女神の御下に還るまで、貴方の隣を歩むことを赦していただけますか」
「もちろんです」
言ってマリウスが、シリアナの体を抱きしめた。
マリウスの雄芯がすれて痛みを感じる。
シリアナの口から、うっ、とうめき声が漏れた。
マリウスがシリアナの体を放す。
「大丈夫ですか?」
シリアナは頷く。
「なら、このまま続けても?」
素直に応えるのは恥ずかしい。シリアナは少し目を伏せ頷いた。
「なるべく早く終わらせます。つらければ私につかまっていて下さい」
マリウスは言って、シリアナの腕を取ると、自らの背にまわさせた。
シリアナの様子をうかがうように、マリウスはゆっくりと腰を前後に一二回動かした。
「――ひゃっ……」
引き攣れるような痛みに、小さく悲鳴が漏れた。
筋肉の盛り上がったマリウスの肩を抱く手に、力を込める。
それを合図とばかりに、マリウスが雄芯を動かす速度を上げる。
「――ぃゃぁあ」
マリウスの肉塊が抜き差しされる度に感じる痛みに、シリアナは悲鳴を上げる。
「もう少し、我慢して」
マリウスは両手で、しっかりとシリアナの腰を抑える。
マリウスの欲望が、狭隘の一番奥にこつりと当たる度、シリアナの口から悲鳴が漏れる。
「――っはぁ……、――いやぁ……、ぁあっ……、――ぅうんっ」
マリウスはそれを無視して、腰をシリアナの下肢に打ち付ける。
痛みに耐えかね、シリアナは広げた脚でマリウスの体を挟み込む。
すると花芯の奥も締まって、余計に胎内のマリウスの存在を感じる。
「――いやぁ」
シリアナは首を左右に振った。
「あと、すこしですから」
マリウスが苦しげにつぶやく。
その声に、うっすらと瞼を持ち上げ、痛みに知らず知らずの内に閉じていた瞳をシリアナは開いた。
掌で感じる彼の素肌は汗ばんでいる。
顔の横に落ちかかった髪が、汗の流れる彼の頬に何本か張り付いていた。
マリウスの肩に載せていた手をずらして、明るい金色の髪の上から彼の頬を触った。
マリウスがはっとしたように動きをとめる。シリアナは男に向かって微笑んだ。
「貴方はわたしの幸いの風です。わたしも貴方の幸いの風になりたい。どうかわたしを貴方のものに」
「初めからそのつもりです」
マリウスからとも、シリアナからともなく口づける。
何度か互いの唇を寄せ合い、軽くはむ。
マリウスはシリアナの後頭部に手を回し、深く口づけた。
「――っぅうん」
シリアナは喉の奥で息を飲み込む。
マリウスは、歯列の間をかいくぐり、舌を奥へ差し込むと同時に、再び腰の動きを開始した。
シリアナは、マリウスの頭と肩に回した手で、男の体をしっかりと抱きしめる。
マリウスの舌は、シリアナの舌を絡めとり、しっかりと吸い上げる。
マリウスの腰の動きが早くなる。肉と肉がぶつかり合う音、シリアナの下肢から溢れ出した体液が、マリウスのたくましい雄芯にかき混ぜられて発する淫靡な水音、欲を求めて体を動かす男の荒い鼻息、互いの唇が近づいてはまた離れるたびに起きる破裂音、二人の唾液が交じり合い、絡まり合う音。睦み合う男女のおこす卑猥な音が、室内を満たす。
「っぅ、うぅんっ」
下肢の痛みは弱まらない。マリウスの肉塊が、狭隘の内襞をこすり上げる度に強くなっていく。
マリウスに口づけられたままでは、声はでない。シリアナは、喉からわき上がる悲鳴を、鼻息とともに逃がす。
マリウスの雄芯の先が、シリアナの胎内の一番深い場所に当たった。
「――ぅうん!?」
その瞬間、シリアナは思わず息をのんだ。
マリウスは、シリアナの後頭部と肩を支えていた手を放す。
シリアナの腰をつかんで、自身に向かって強く引きつける。
「くぅっ……」
マリウスは苦しげに目をつむり、うめき声を上げる。
シリアナの胎でマリウスの肉塊がふくれあがり、一際熱を持つ。
マリウスは雄芯をわずかに退いて、再びシリアナの一番深い場所に打ちつけた。
「――ぁ、あぁぁっ――――」
喉を反らしたシリアナの口から悲鳴が漏れる。
マリウスの雄芯から迸った熱い飛沫が、シリアナの一番深い場所を濡らす。
「ぃ、いやぁ」
シリアナは首を振る。
マリウスはさらに深く、シリアナの腰を引きつける。
シリアナの胎のマリウスが、痙攣するように幾度か小刻みに動く。その度に、マリウスの欲望が雄芯の先から溢れ出した。
「はぁっ」
痙攣が収まって、マリウスが息を漏らす。
マリウスはそのまま、自分自身をシリアナの胎からずるりと引き抜く。
マリウスが吐き出した欲によって、最初と比べ楽にはなったが、マリウスの雄芯が内壁をこする時の引き攣れるような痛みに、シリアナは眉をしかめた。
マリウスが去ると同時に、狭隘の入り口から下肢を伝って、何かが流れ出たのがわかった。
シリアナは頭を持ち上げ、開いて投げ出されたままになった自分の脚の間を見た。
シリアナの破瓜の血と交じり合って薄紅色になったマリウスの欲望が、シリアナの股の間の茂みから溢れ出し、敷布を汚していた。
「――ぃや」
敷布の上ににはっきりと残った先ほどまでの行為の名残を見て、途端に恥ずかしくなる。
男を迎え入れるため、先ほどまで目一杯開かされていた脚は怠く動かない。
シリアナは首を回して、掛布を探す。
それに気づいたマリウスは小さく笑い、床の上に落ちていた白い薄布でできた掛布を拾うと、シリアナの体にかけた。
「体はつらくはないですか?」
マリウスの問いかけにシリアナは首を振る。
寝台の上に座ろうと、両手に力を入れ体を持ち上げようとした。
「――っう……」
下肢に感じた痛みに、シリアナはにうめき声を上げる。
シリアナが少しでも動こうとすると、下肢から腰にかけ、きりりと鋭い痛みが走る。
「しばらくじっとしていた方がいでしょう。着るのに楽なものを持ってきますから」
マリウスは言って、シリアナの額にかかる髪をかき分け、口づけた。
マリウスは床に散らばる二人の服を集めて、手早く自分の分だけ身につける。
「待っていてください。すぐに戻ってきます」
シリアナの服を持ってマリウスは言い、部屋を出て行った。